バツイチですが、クールな御曹司に熱情愛で満たされてます!?
その日はそれを思い知らされた日だった。
ここ最近確かに、彼女のことを考える時間が長くなっていた。
ふと封筒の中をもう一度確認したら、一筆箋が入っていた。
【遅くなりましたが、先日のワンピースの代金です。とっても気に入っていてあれから何度か着て出かけています。ありがとうございました。佐久間伊都】
相変わらずの丁寧な文字だ。
指を紙の上に滑らせてみる。なんだか温かく感じるのは気のせいだろうか。手書きの文字から彼女の純粋な感謝の気持ちが伝わってくる。
これまでだって、何度か手紙をもらったことがある。文章が凝っていたり文字が綺麗だったり。しかし上辺がいくら美しくてもその中に込められた感情が伝わってくると途端に自分にとっては面倒なものになってしまうのだ。
お礼に食事がしたい。一度会って商品を見てほしい。知人を紹介してほしい。直接書いてあるもの、遠まわしに依頼してあるものそれぞれだが、本来の意図とは違う内容に辟易してしまった。祖母にその話をしたら『ひねくれすぎ』といわれたけれど、何度も同じことがあれば警戒するのはあたりまえのことだ。
この手の輩の話にのってしまったら最後、食事の席に向こうの両親がいて結婚を迫られたり、契約書をもって追いかけられたり、SNSに勝手に写真を載せられてビジネスパートナーのような扱いをされてしまう。それらにさく労力は無駄以外の何物でもない。
だから感謝だけがこもった手紙をうれしく思ってしまうのだ。ただそれも俺自身が彼女に興味があるからかもしれない。
ある日会議を終えた俺は、たまたま彼女を見かけた。システム部との打ち合わせだろうか。そのまま立ち去ることもできたのに、どうしても気になってしまって急げと言う秘書をなだめて、ブースの外から様子をうかがった。
「そちらの資料については……えー。あー」
「ここの仕様について気になるんだけど」
「それはですねー」
どうやら同席している男性営業が、こちらの担当の質問に答えられずに焦っているようだった。
そのとき彼女がすっと紙を一枚出した。
「本来ならばそちらの資料に添付するべきものでした。申し訳ありません。こちらを使って説明させていただき、きちんとしたものを早急にお持ちします」
頭を下げたあと、こちらの質問にもしっかりと答えていた。それと同時にこちら側にメリットのある提案もさらっと混ぜている。
「それでは続きは大野から説明させます」
彼女は隣の男性営業を見てゆっくり頷いた。ただそれだけなのに、それまで落ち着きのなかった営業がしっかりと商談をまとめはじめた。
仕事でも人のために動いているんだな。なんだかその姿が、たのもしくかっこよく見えた。
「彼女の同僚は幸せだな」
思わずつぶやいて笑うと、秘書がいいかげんにしてほしいという視線でこちらをみているのに気がついた。
「そろそろお戻りください」
最後にもう一度仕事に励む彼女の横顔を見てから、俺は歩き出した。
いつみても彼女は、周囲の人のために行動している。
そんな彼女が困ったときに、誰が手を差し伸べるのだろうか。
――俺ではダメなのか?
ふとそんな気持ちが湧いてきて、自分の気持ちを自覚する。
彼女のために何かがしたい、そのとき彼女がどんな顔をするのか。あのワンピースを着た時のように嬉しそうにするのだろうか。それとももっと違うリアクションとるのだろうか。
社長室に戻る間、束の間の時間。俺の頭の中は彼女でいっぱいだった。
* * *
月曜は週の始まり。この日は社内の会議や打ち合わせが入ることが多く、私も朝からデスクに座ることなく、社内のあちこちを渡り歩いていた。
開発部との打ち合わせが終わった午後二時。
やっと自分の席に戻り、デスクの上に雑多に置かれた整理していく。基本的にはペーパーレスを推奨する会社だが、なんだかんだで紙の資料も多い。
手を動かしながら、頭の中でこの後の仕事の流れを考えていると、嬉々とした表情を浮かべた大野君が私のもとにやってきた。
「佐久間さんっ! グランドオクトホテルの契約が取れました!」
「えっ! 本当に?」
プレゼン時はとても感触がよかった。自分たちの提案にも自信があった。それでも競合他社の方がすばらしいかもしれない。そんなことを思いながら結果を待っていた。
「はい、本当です! よっしゃあ~!」
快哉を叫ぶ大野君と、手を取り喜び合う。きっとすごいプレッシャーを感じていたはずだ。
体中で気持ちを爆発させる大野君を見て、その場にいたみんなも拍手をしてくれる。
「すぐに課長に報告に行こう」
「はいっ!」
フロアのパーティションで区切られている、良介のデスクにふたりで向かう。
「谷口課長、今お時間よろしいでしょうか?」
ここ最近確かに、彼女のことを考える時間が長くなっていた。
ふと封筒の中をもう一度確認したら、一筆箋が入っていた。
【遅くなりましたが、先日のワンピースの代金です。とっても気に入っていてあれから何度か着て出かけています。ありがとうございました。佐久間伊都】
相変わらずの丁寧な文字だ。
指を紙の上に滑らせてみる。なんだか温かく感じるのは気のせいだろうか。手書きの文字から彼女の純粋な感謝の気持ちが伝わってくる。
これまでだって、何度か手紙をもらったことがある。文章が凝っていたり文字が綺麗だったり。しかし上辺がいくら美しくてもその中に込められた感情が伝わってくると途端に自分にとっては面倒なものになってしまうのだ。
お礼に食事がしたい。一度会って商品を見てほしい。知人を紹介してほしい。直接書いてあるもの、遠まわしに依頼してあるものそれぞれだが、本来の意図とは違う内容に辟易してしまった。祖母にその話をしたら『ひねくれすぎ』といわれたけれど、何度も同じことがあれば警戒するのはあたりまえのことだ。
この手の輩の話にのってしまったら最後、食事の席に向こうの両親がいて結婚を迫られたり、契約書をもって追いかけられたり、SNSに勝手に写真を載せられてビジネスパートナーのような扱いをされてしまう。それらにさく労力は無駄以外の何物でもない。
だから感謝だけがこもった手紙をうれしく思ってしまうのだ。ただそれも俺自身が彼女に興味があるからかもしれない。
ある日会議を終えた俺は、たまたま彼女を見かけた。システム部との打ち合わせだろうか。そのまま立ち去ることもできたのに、どうしても気になってしまって急げと言う秘書をなだめて、ブースの外から様子をうかがった。
「そちらの資料については……えー。あー」
「ここの仕様について気になるんだけど」
「それはですねー」
どうやら同席している男性営業が、こちらの担当の質問に答えられずに焦っているようだった。
そのとき彼女がすっと紙を一枚出した。
「本来ならばそちらの資料に添付するべきものでした。申し訳ありません。こちらを使って説明させていただき、きちんとしたものを早急にお持ちします」
頭を下げたあと、こちらの質問にもしっかりと答えていた。それと同時にこちら側にメリットのある提案もさらっと混ぜている。
「それでは続きは大野から説明させます」
彼女は隣の男性営業を見てゆっくり頷いた。ただそれだけなのに、それまで落ち着きのなかった営業がしっかりと商談をまとめはじめた。
仕事でも人のために動いているんだな。なんだかその姿が、たのもしくかっこよく見えた。
「彼女の同僚は幸せだな」
思わずつぶやいて笑うと、秘書がいいかげんにしてほしいという視線でこちらをみているのに気がついた。
「そろそろお戻りください」
最後にもう一度仕事に励む彼女の横顔を見てから、俺は歩き出した。
いつみても彼女は、周囲の人のために行動している。
そんな彼女が困ったときに、誰が手を差し伸べるのだろうか。
――俺ではダメなのか?
ふとそんな気持ちが湧いてきて、自分の気持ちを自覚する。
彼女のために何かがしたい、そのとき彼女がどんな顔をするのか。あのワンピースを着た時のように嬉しそうにするのだろうか。それとももっと違うリアクションとるのだろうか。
社長室に戻る間、束の間の時間。俺の頭の中は彼女でいっぱいだった。
* * *
月曜は週の始まり。この日は社内の会議や打ち合わせが入ることが多く、私も朝からデスクに座ることなく、社内のあちこちを渡り歩いていた。
開発部との打ち合わせが終わった午後二時。
やっと自分の席に戻り、デスクの上に雑多に置かれた整理していく。基本的にはペーパーレスを推奨する会社だが、なんだかんだで紙の資料も多い。
手を動かしながら、頭の中でこの後の仕事の流れを考えていると、嬉々とした表情を浮かべた大野君が私のもとにやってきた。
「佐久間さんっ! グランドオクトホテルの契約が取れました!」
「えっ! 本当に?」
プレゼン時はとても感触がよかった。自分たちの提案にも自信があった。それでも競合他社の方がすばらしいかもしれない。そんなことを思いながら結果を待っていた。
「はい、本当です! よっしゃあ~!」
快哉を叫ぶ大野君と、手を取り喜び合う。きっとすごいプレッシャーを感じていたはずだ。
体中で気持ちを爆発させる大野君を見て、その場にいたみんなも拍手をしてくれる。
「すぐに課長に報告に行こう」
「はいっ!」
フロアのパーティションで区切られている、良介のデスクにふたりで向かう。
「谷口課長、今お時間よろしいでしょうか?」