バツイチですが、クールな御曹司に熱情愛で満たされてます!?
そう言って周囲の人たちは慰めてくれる。それはそうなのだけれど、それでもひとりひとり事情があり、傷ついている。
私も離婚のきっかけとなったあの日の出来事は、忘れられない。
* * *
今から二年半前。
元夫の谷口良介は、最年少で課長に昇進した二つ年上の上司だった。
公私ともに頼れる人。私は彼に全幅の信頼を置いていた。
新卒で営業職で入社した会社で右も左もわからない私から見て、バリバリと仕事をこなす彼は憧れの存在で、優しく時に厳しくユーモアにあふれ男気のある彼はまさに理想の上司だ。
そんな彼に告白された私は、すぐにOKした。
周囲に慕われていた彼との交際は、みんな後押しをしてくれる。これまで恋愛をしてこなかった私は男性とつき合うこと自体が不安だったが、職場のみんなが賛成してくれて心強かった。
頼りがいのある彼。就職後、学生時代とは違うプレッシャーを感じる毎日に鬱々と過ごす日もあった。しかしそんなときに彼から「綺麗だね」「好きだよ」「君と入られて幸せだ」といった甘い言葉をもらえると、それだけで胸の中にあったもやが晴れていった。
後から思えば、彼への依存度がこのころどんどん強くなっていっていた。彼のいう通りにしていれば間違いない。彼は私を幸せにしてくれるのだと。
仕事終わりや、週末のデート。仕事でも彼の指導で社会人として成長の実感する。公私ともに彼と過ごし支えられ、自分は幸せだと信じていた。
だからずっと一緒にいるのが当たり前だと思っていた。
半年ほどつき合った後のプロポーズ。断る理由のない私は彼との結婚を決意した。
永遠の愛、永遠の幸せ。
それがずっと続いていくものだと思っていた。愛し愛され支え合う人生。なにがあってもふたりで手を取り合えって前に進む。それが結婚だと思っていたのに。
しかし憧れの彼との結婚生活は自分が思い描いていたものとはかけ離れていた。
結婚して半年ほどしたあたりから、気持ちのすれ違いが多くなっていった。と、いうよりもあからさまに彼の私に対する態度が支配的になっていったのだ。
『俺の言うことだけ聞いていればいい』
『なにをやらしてもダメだ』
『お前は本当に役立たずののろまだな』
言葉だけではなく、態度も冷たかった。
作った食事には手をつけず、家事や仕事の失敗をいつまでも責められた。家を空ける日も増え、それらの全部が自分がいたらないせいだと思っていたのだ。
それだけ、自分が子どもだった。
しかし自分を責め続ける毎日に強いストレスを感じはじめる。気持ちも沈みがちで仕事にも集中できない。
誰かに聞いてほしくて、仲の良い同僚ひとりに相談をした。しかし帰ってきた返事は『谷口さんはそんな人じゃない。考えすぎじゃないのか』と。
そのとき理解した。きっとここには私の気持ちを理解してくれる人はいない。ここでの彼と私の夫である彼とではあまりにも人格が違いすぎる。
そんな私を追い詰めるかのように、私が結婚生活に悩んでいるという話をその同僚が彼本人に伝えてしまった。よかれと思ってした行為だろう。会社での彼しか知らない人なら心配してそうした行動に出たのも理解できた。
しかし私にとっては、結婚生活が修復不可能だと判断するきっかけになる。
帰宅後、激高した彼が夫婦のお揃いであるお茶碗を私の目の前でたたき割った。
そのとき私の心も壊れてしまった。
離婚が決定的になったのは……早めに出張を終えて住んでいたマンションに戻ると、知らない女性が夫と裸で抱き合っていた。
皮肉だけど、その最悪な出来事がきっかけとなり、私は目を覚ますことができた。夫婦だから我慢しなくてはいけないという呪縛から逃れられた。
それから私は彼と別れ、転職もした。
仕事と家庭。大切に思っていたものが自分の手のひらからなにもかもこぼれ落ちていった。
抜け殻だった私を救ってくれたのは、新しい仕事と環さんだった。
離婚の後遺症のようなもので、恋愛に対しては臆病になってしまった。そもそも元夫という人の本性を見抜けなかった私は恋愛に向いていないのだろう。
このままだとさみしいと思う気持ちもあるが、恋愛はしなくても生きていける。二年経った今、自分なりの幸せを得られるようになった。
今もなお、心の傷として残っている。あんな思いをするくらいなら、今の平穏な日常を送る方がずっと幸せだ。
はぁと大きく息を吐いた。時々こうやってとりとめのないことに考えを巡らせてしまう。
ただちゃんと言えるのは、結婚していたあの時よりも今の私はずっと幸せだ。人と比べるのではなく、過去の自分よりも幸せになっていればそれでいい。
ソファに座ってもう一度、今日八神さんが選んだワンピースを眺める。なんとなくその場所だけ輝いているように見える。身に着けると明るく軽やかな気分になった。久しぶりに洋服で気持ちが明るくなった。
自分には似合わないと思っていたのに、着てみればとても素敵で気に入った。
まだまだ人生には新しい発見がある。
「さて、明日も仕事だしもう寝よう」
一日リフレッシュできた体を休めて、明日の仕事に備えるために早めにベッドに向かった。
私も離婚のきっかけとなったあの日の出来事は、忘れられない。
* * *
今から二年半前。
元夫の谷口良介は、最年少で課長に昇進した二つ年上の上司だった。
公私ともに頼れる人。私は彼に全幅の信頼を置いていた。
新卒で営業職で入社した会社で右も左もわからない私から見て、バリバリと仕事をこなす彼は憧れの存在で、優しく時に厳しくユーモアにあふれ男気のある彼はまさに理想の上司だ。
そんな彼に告白された私は、すぐにOKした。
周囲に慕われていた彼との交際は、みんな後押しをしてくれる。これまで恋愛をしてこなかった私は男性とつき合うこと自体が不安だったが、職場のみんなが賛成してくれて心強かった。
頼りがいのある彼。就職後、学生時代とは違うプレッシャーを感じる毎日に鬱々と過ごす日もあった。しかしそんなときに彼から「綺麗だね」「好きだよ」「君と入られて幸せだ」といった甘い言葉をもらえると、それだけで胸の中にあったもやが晴れていった。
後から思えば、彼への依存度がこのころどんどん強くなっていっていた。彼のいう通りにしていれば間違いない。彼は私を幸せにしてくれるのだと。
仕事終わりや、週末のデート。仕事でも彼の指導で社会人として成長の実感する。公私ともに彼と過ごし支えられ、自分は幸せだと信じていた。
だからずっと一緒にいるのが当たり前だと思っていた。
半年ほどつき合った後のプロポーズ。断る理由のない私は彼との結婚を決意した。
永遠の愛、永遠の幸せ。
それがずっと続いていくものだと思っていた。愛し愛され支え合う人生。なにがあってもふたりで手を取り合えって前に進む。それが結婚だと思っていたのに。
しかし憧れの彼との結婚生活は自分が思い描いていたものとはかけ離れていた。
結婚して半年ほどしたあたりから、気持ちのすれ違いが多くなっていった。と、いうよりもあからさまに彼の私に対する態度が支配的になっていったのだ。
『俺の言うことだけ聞いていればいい』
『なにをやらしてもダメだ』
『お前は本当に役立たずののろまだな』
言葉だけではなく、態度も冷たかった。
作った食事には手をつけず、家事や仕事の失敗をいつまでも責められた。家を空ける日も増え、それらの全部が自分がいたらないせいだと思っていたのだ。
それだけ、自分が子どもだった。
しかし自分を責め続ける毎日に強いストレスを感じはじめる。気持ちも沈みがちで仕事にも集中できない。
誰かに聞いてほしくて、仲の良い同僚ひとりに相談をした。しかし帰ってきた返事は『谷口さんはそんな人じゃない。考えすぎじゃないのか』と。
そのとき理解した。きっとここには私の気持ちを理解してくれる人はいない。ここでの彼と私の夫である彼とではあまりにも人格が違いすぎる。
そんな私を追い詰めるかのように、私が結婚生活に悩んでいるという話をその同僚が彼本人に伝えてしまった。よかれと思ってした行為だろう。会社での彼しか知らない人なら心配してそうした行動に出たのも理解できた。
しかし私にとっては、結婚生活が修復不可能だと判断するきっかけになる。
帰宅後、激高した彼が夫婦のお揃いであるお茶碗を私の目の前でたたき割った。
そのとき私の心も壊れてしまった。
離婚が決定的になったのは……早めに出張を終えて住んでいたマンションに戻ると、知らない女性が夫と裸で抱き合っていた。
皮肉だけど、その最悪な出来事がきっかけとなり、私は目を覚ますことができた。夫婦だから我慢しなくてはいけないという呪縛から逃れられた。
それから私は彼と別れ、転職もした。
仕事と家庭。大切に思っていたものが自分の手のひらからなにもかもこぼれ落ちていった。
抜け殻だった私を救ってくれたのは、新しい仕事と環さんだった。
離婚の後遺症のようなもので、恋愛に対しては臆病になってしまった。そもそも元夫という人の本性を見抜けなかった私は恋愛に向いていないのだろう。
このままだとさみしいと思う気持ちもあるが、恋愛はしなくても生きていける。二年経った今、自分なりの幸せを得られるようになった。
今もなお、心の傷として残っている。あんな思いをするくらいなら、今の平穏な日常を送る方がずっと幸せだ。
はぁと大きく息を吐いた。時々こうやってとりとめのないことに考えを巡らせてしまう。
ただちゃんと言えるのは、結婚していたあの時よりも今の私はずっと幸せだ。人と比べるのではなく、過去の自分よりも幸せになっていればそれでいい。
ソファに座ってもう一度、今日八神さんが選んだワンピースを眺める。なんとなくその場所だけ輝いているように見える。身に着けると明るく軽やかな気分になった。久しぶりに洋服で気持ちが明るくなった。
自分には似合わないと思っていたのに、着てみればとても素敵で気に入った。
まだまだ人生には新しい発見がある。
「さて、明日も仕事だしもう寝よう」
一日リフレッシュできた体を休めて、明日の仕事に備えるために早めにベッドに向かった。