クールで人気者の宇佐美くんは、私の前でだけデレが全開になります。
この体育館で最後に話したのは、確か二月のまだ寒い日――モップ掛けが終わらなくてもたついてた私に、偶々そばを通りかかった宇佐美くんが、こう言ったんだ。
「……遅いし、邪魔なんだけど」
――うん、確かにその言葉通りだった。
だけど、他に通れる場所だっていっぱいあったし、わざわざ私のそばを通る必要はないと思うんだけど……。
そう思いながらも、言い返す勇気もなかった私は「ごめんね」って素直に謝った。
そうしたら宇佐美くんは、私が手にしていたモップを無言で奪っていって、私の代わりにモップ掛けをしてくれたんだよね。
練習をするはずの部員に雑務を押し付けてしまうなんて……と、あの時はかなりへこんだ。
何より、宇佐美くんにそっけない態度をとられることが、すごく辛かったんだよね。
結局私は、宇佐美くんに「ありがとう」ってお礼の言葉を言うことすらできなくて。また冷たい瞳で射抜かれるのが、怖くて。
モップを託したまま、黙ってその場を離れたんだ。