クールで人気者の宇佐美くんは、私の前でだけデレが全開になります。
二泊三日になる合宿の、初日。
ついさっきまでコート内を駆けまわっていた部員たちも、今は各々休憩をとっている。
私も飲み物を配り終えて、一息つこうと思っていれば――。
「あ、夏目さん」
目が合った宇佐美くんが、こちらに近づいてくる。
そして宇佐美くんの後方には、藤崎さんの姿が見えた。そのまなざしは、宇佐美くんの背中に真っ直ぐ向いているように見える。
「ごっ……ごめんね、私行かなくちゃ」
「え、行くってどこに……」
藤崎さんからの突き刺さるような視線に、何だか気まずくなってしまって。
私は逃げるようにその場を後にした。
その後も、宇佐美くんは何度か私に声を掛けようと近づいてきたんだけど……私は宇佐美くんを、徹底的に避けてしまった。
そもそも、隣の席になるまでの約一年間は、こんな風に宇佐美くんの視界に入らないような生活を送っていたわけで……自ら歩み寄ろうしてくる宇佐美くんの変化が、私は少しだけ怖い。
――だって何を考えているのか、よく分からないから。