クールで人気者の宇佐美くんは、私の前でだけデレが全開になります。
「……あ、ありがとう」
少女漫画やドラマの中でしか聞いたことのない甘い台詞もサラッと口にしてしまえるなんて……さすが、女子たちの間で密かに“王子様”と噂されているだけある。
じわじわと甘酸っぱい気持ちが胸に広がるのを感じながらも、周囲に気を配りつつ足を進める。
何もないとは思うけど、万が一、お化け的なものが出てきたら怖いし……キョロキョロと無意味に視線を巡らせてしまう。
「そういえば夏目さん、最近遥翔とよく話してるよね」
「あ、うん。同じクラスになって、席もお隣さんになったから」
「席が隣に? ……そういえば遥翔と同じクラスの奴が、席替えの時に遥翔が泣き出したとか言ってたんだけど……あれって本当のことなの?」
「えーっと、それは……」
――本当のことだよって、言ってもいいのかな。
正直に言っていいものかと悩んでいれば、蓮見くんは私の返答を聞くことなく別の話題を振ってくれた。
多分、私が困っていることを察してくれたんだろう。