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ふと渚は湊の横に置かれているA3版の茶封筒を見た。
その封筒には「栄文社」と書かれている。
おもわず渚は声を上げた。
「連城さんて栄文社の編集者なの?」
「ああ。そうだ。それがどうした。」
「じゃあ木之内惣先生の小説も扱っていたりする?」
「木之内惣は俺の担当だ。」
「ほんと?!」
渚の声がワントーン高くなり、目が輝きだした。
「私、木之内先生の大ファンなの。木之内先生の作品はほとんど読んでいる。難解な言葉を使わず読みやすいのに、胸にグッとくるロマンチシズムな文体。先の読めない展開。そして誰もをうならせるラスト。とくに『月に浮かぶ魚』は素敵だった。何回も読みかえしているわ。」
すると湊もやや興奮気味に話し始めた。
「『月に浮かぶ魚』は木之内惣の最高傑作だと俺も思っている。あの作品の為に色んな資料を集めに行ったことを思い出すよ。原稿を受け取るたびに早く次が読みたいってわくわくしたな。」
「ラストで彼がヒロインに会いにいくところなんてもう最高!」
渚は胸で手を組み、ほおっとため息をついた。
「そう言ってもらえると担当編集冥利に尽きる。生の読者の声は貴重だからな。」
「次の新作も期待してるわ。」
「そうか。木之内惣にも伝えといてやる。」
渚と湊は木之内惣の小説の話題でひとしきり盛り上がった。
「ねえ、木之内先生ってどんな方?きっと素敵な方なんだろうなあ・・・」
「まあ・・・・・・一言では言えない。」
渚が木之内惣の人柄を尋ねた途端、湊の口が重くなった。