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渚、後輩男子とお弁当を食べる
蝉の声がミンミンと鳴り響く真夏の午後。
渚は会社の休憩室で少し遅めのランチを取っていた。
今日は給料が出たばかりなので、奮発して『和風デラックス幕の内弁当』をチョイスした。
いつものコンビニではなく、ちゃんとした日本料理屋の弁当だ。
ふわふわのだし巻き卵や、上品な味わいの鮭の西京焼きや、煮物やらが美しく弁当箱を彩っている。
「美味しそう・・・いただきます!」
口に入れた甘い人参が、朝食抜きの身体に染み渡っていく。
奈央の家庭教師を始めてからというもの、美味しい夕食やスイーツを毎週のように食すようになった渚は、舌が肥えて困るという贅沢な悩みを抱えていた。
渚はエプロンを付けてキッチンに立つ湊を思い浮かべた。
「あの人のスイーツ・・・なんであんなに美味しいんだろ。」
栄文社からの帰り道に喧嘩して以来、渚は湊と会っていない。
湊が何に怒っていたのかわからない以上、渚としては謝りようがなく、もやもやとした気持ちが心に燻っていた。
「なによ。そっちから何か言ってきなさいよ。そしたら私だってちゃんと頭を下げるのに。」
そうブツブツつぶやく渚に、いつの間にか休憩室に入ってきた宗像和樹がそっと声を掛けた。
「渚先輩。最近独り言多くないですか?」
「わっ!いたの?宗像君もこれから昼休憩?」
「はい。さっきようやく真中さんの賃貸契約が決まって、ホッとしました。」
顧客の真中ヨネは独り暮らしの73歳女性。
独居の高齢者は賃貸マンションオーナーが契約を渋るケースが多く、真中ヨネもなかなかいい物件に巡り会えずにいたのだった。
「そう。よかった!忍耐強く真中さんに合った物件を探し回った宗像君のお手柄ね。お疲れ様。」
「渚先輩が一緒に内見してくれたお陰です。」
「私はただ付いていっただけ。何もしてないよ。」
「それが心強いんです。あ、隣座ってもいいですか?」
「もちろん。」
和樹は素早く渚の隣の椅子に腰掛けた。