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「あの・・・木之内惣って名前、一見男性みたいに思えるんだけど・・・美里さんが自分で付けたの?」

「ああ。美里は未婚の母だって前に話しただろ?木之内惣は美里の婚約者であり奈央の生物学上の父親の名前だ。本当の木之内惣は美里の同人誌仲間だった男で、あいつも作家を目指していた。俺にもきさくに接してくれるいい男だったよ。」

「・・・・・・。」

「だがあいつは美里が奈央を宿し、結婚届けを出す直前に山で遭難して帰らぬ人となった。だから美里はあいつの夢を叶えようと自分のペンネームを木之内惣と名付けた。美里は木之内惣を心底愛していたんだ。おそらく今も、そしてこれからも・・・」

「そうだったのね・・・。」

「俺は美里に新作をどんどん書かせ、一躍人気作家へと押し上げた。執筆活動で忙しくなった美里は奈央の世話をする時間が少なくなっていった。それでも美里はやりくりして幼い奈央との時間を作っていたんだ。俺もそれについてはずっと申し訳なく思っていたよ。だから俺は美里に言ったんだ。しばらく仕事を休んで奈央とふたりで旅行にでも行ってこい、と。それが悲劇の発端だった。」

渚は苦悶の顔を浮かべる湊に胸が痛んだ。

いつも偉そうでなんの悩みもなさそうな湊が、こんな表情をするなんて・・・

「湊。もういいのよ。そんなに辛いなら話さなくてもいい。大体の事情はわかったから・・・」

そう優しく語りかける渚に、湊は首を振った。

「いや・・・。渚には全部知っていてもらいたい。黙って聞いててくれ。」

「わかった。」

渚は改めて姿勢を正した。

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