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「美里は奈央を連れて日本海が見える北陸の土地を旅することにした。途中までは楽しい旅だったようだ。奈央と一緒に綺麗な景色を見たり、遊覧船に乗ったり、美味しいものを食べたり・・・。けれど旅行の中日(なかび)に泊まった宿で、美しい自然を堪能した美里はそれらにインスピレーションを得て、旅日記だけを書くはずだったノートパソコンに新しい小説を書き始めたんだ。美里は夢中で自らの頭に浮かんだ物語をパソコンに打ち続けた。そしてふと気づいたときは翌日の夕方だった。美里は睡眠も食事も忘れて執筆に没頭していたらしい。そして・・・やっと奈央の姿が見えないことに気づいたんだ。」

「・・・・・・。」

「美里は消えた奈央を必死で探し始めた。もし奈央がお腹を空かして泣き叫ぶような子供だったらそんなことにはならなかったのかもしれない。だが、渚も知っての通り、奈央はしっかりした子供だ。美里が仕事をしているのを邪魔したくなかったのかもしれない。奈央はひとりでなんとかしようと、ふらりと旅館を出てしまったんだ。」

「奈央君らしい・・・」

「旅館の中を探してもどこにもいない。誰かに連れ去られてしまったのではないかと、美里は半狂乱になった。俺が車で駆けつけたとき、美里は近くの病院のベッドで眠っていた。心痛で気を失ってしまったんだ。警察に届けを出して2日目の朝、奈央は保護された。金沢駅の片隅にあるベンチにぽつんと一人で座っていたそうだ。」

そこまで話して、そのときの安堵感がよみがえったのか、湊は小さく息をついた。

「奈央の話だと、優しい老夫婦にご飯を食べさせてもらったんだそうだ。これは俺の推測だが、その老夫婦は奈央の世話をしている内に奈央を手放すのが惜しくなったんだと思う。しかしそうしているうちに日にちが経ってしまい、自分達が誘拐まがいなことをしていることに気づき、怖くなって奈央を人目が付く場所へ置いていった・・・。警察に届け出るには時間が経ちすぎていたし、最悪牢屋へ入れられると思ったのかもしれない。酷いことはされなかったみたいだし、むしろ親身に世話してもらったと奈央は主張していた。」

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