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渚、母なる人へ訴える
木之内惣の自宅兼仕事部屋は、栄文社からほど近いマンションの一室だという。
美里に奈央のボイスレターを聴いてもらう為、渚は湊と一緒にその部屋を訪れることに決めた。
そのマンションは大手不動産会社が展開しているシリーズの、高級感あふれるブランドマンションだった。
エントランスにあるオートロックボタンの暗証番号を、湊は慣れた手つきで押した。
しばらくしてガラスの自動ドアが開くと、エレベーターで6階まで上がり、601号室のインターフォンを鳴らす。
しかし反応は無い。
不安そうな渚をよそに、湊は「いつものことだ。」とつぶやき自らのキーケースを取り出した。
合鍵でドアを開け、湊は形ばかりの挨拶をし、渚もその後ろに続いた。
リビングを抜け、奥の部屋の扉を開けると、そこは広い書斎だった。
しかしその広さが感じられないほど、部屋の床の上には本棚に入りきらない雑誌や本、書類などの紙の束が山のように置かれていて、足の踏み場に困るほど散らかっていた。
そして書斎の壁を背に机に向かう美里・・・木之内惣は髪をお団子に結び、丸い黒縁メガネをかけ、白いTシャツにジーパンを履き、一心不乱にパソコンのキーを叩いていた。
それは著者近影に写る上品でゆるふわなイメージとはかけ離れた姿で、優雅に執筆する木之内惣を想像していた渚は、人気作家の現実を見て自分の甘さを知った。
「木之内先生。」
「・・・・・・。」
「木之内先生!」