転生したら竜の花嫁⁉ ~雨乞いの生贄にされた私を捨てられた女なら丁度良いと竜が拾いに来ました~
結婚相手は人外でした
前世において、私の夢は『恋愛結婚』だった。
そして今世においても、私の夢はそれである。
転生者だと思い出す前からそうだったあたり、その夢は悲願と呼んでいいレベルだと思う。
嗚呼、それなのに。現在、私が対峙している結婚相手は……『湖』だった。
(無いわー……結婚相手が自然物とか、無いわー……)
今の私――アルテミシアの容姿は、美少女だ。自分でいうのも何だが。
背中まであるふわふわとした蜂蜜の髪に、淡褐色の瞳。精巧なお人形のような顔立ちをしていて、生まれは伯爵家のお嬢様。
ここまでいけそうな条件が揃っていて恋愛結婚どころか、恋愛すら未経験とか。何度生まれ変わったところで私の夢なんて叶わないとでも言いたい? そう言いたい? ねぇ、神様。
ザリッ
シクル村に響き渡る音楽に合わせ、サンダルを履いた足で一歩前に進む。
プールの飛び込み台のように突き出た崖を、湖に向かって、進む。
祭事を取り仕切る者たちの視線が、私の背中にビシバシ突き刺さる。そんな警戒せずとも、どうやってこの場から逃げろというのか。
ザリッ
一歩、また一歩と進んで行く。
私が湖に近付くにつれて、音楽はより華やかになっていく。
雨乞いの儀式で生け贄に贈られる肩書きは、『水神の花嫁』。その『水神の花嫁』なる私のために、楽団が婚礼を祝う曲を奏でる。
違う、そうじゃない。私が求めている結婚行進曲は、そうじゃない。
(約束、果たせなかったな……)
ふと、六歳のときに流行病で亡くなった両親の遺言が、頭を過った。
『私より長く生きるように』
『どうか素敵な相手と幸せに』
父様のときも母様のときも、私は「必ず」と頷いてみせたのに。
ゲイル叔父さんに引き取られてからも、「政略結婚でも結婚してから恋愛してみせる!」と諦めたりはしなかったのに。
(結婚相手が自然物とは、想定外過ぎたわ……)
さらに足を進めて、『結婚相手』が随分と近くなる。
眼下に見える、青く透き通ったシクル湖。その水面に、自分が浮かぶ姿を思わず想像する。
たっぷりとドレープが作られた、くるぶし丈の純白ドレス。長い袖も袖口にかけて大きく広がっていて、さぞかし花の如く散れるだろう。
そんな私の皮肉を、そうだを言わんばかりに輝く湖面。ああ、こんなときでなければもっと美しく目に映ったに違いない。そう、湖を輝かせるこの太陽が、何日かに一度でも雨雲に隠れてくれていたなら、もっと――
「……え?」
もはや睨み付けていた湖面が不意に翳り、私は思わず空を見上げた。
「⁉」
そして目に入った光景に、声を上げるのも忘れて固まる。
「りゅ、竜だ!」
そんな私の周りで、誰かが私の心の声を代弁した。
そして今世においても、私の夢はそれである。
転生者だと思い出す前からそうだったあたり、その夢は悲願と呼んでいいレベルだと思う。
嗚呼、それなのに。現在、私が対峙している結婚相手は……『湖』だった。
(無いわー……結婚相手が自然物とか、無いわー……)
今の私――アルテミシアの容姿は、美少女だ。自分でいうのも何だが。
背中まであるふわふわとした蜂蜜の髪に、淡褐色の瞳。精巧なお人形のような顔立ちをしていて、生まれは伯爵家のお嬢様。
ここまでいけそうな条件が揃っていて恋愛結婚どころか、恋愛すら未経験とか。何度生まれ変わったところで私の夢なんて叶わないとでも言いたい? そう言いたい? ねぇ、神様。
ザリッ
シクル村に響き渡る音楽に合わせ、サンダルを履いた足で一歩前に進む。
プールの飛び込み台のように突き出た崖を、湖に向かって、進む。
祭事を取り仕切る者たちの視線が、私の背中にビシバシ突き刺さる。そんな警戒せずとも、どうやってこの場から逃げろというのか。
ザリッ
一歩、また一歩と進んで行く。
私が湖に近付くにつれて、音楽はより華やかになっていく。
雨乞いの儀式で生け贄に贈られる肩書きは、『水神の花嫁』。その『水神の花嫁』なる私のために、楽団が婚礼を祝う曲を奏でる。
違う、そうじゃない。私が求めている結婚行進曲は、そうじゃない。
(約束、果たせなかったな……)
ふと、六歳のときに流行病で亡くなった両親の遺言が、頭を過った。
『私より長く生きるように』
『どうか素敵な相手と幸せに』
父様のときも母様のときも、私は「必ず」と頷いてみせたのに。
ゲイル叔父さんに引き取られてからも、「政略結婚でも結婚してから恋愛してみせる!」と諦めたりはしなかったのに。
(結婚相手が自然物とは、想定外過ぎたわ……)
さらに足を進めて、『結婚相手』が随分と近くなる。
眼下に見える、青く透き通ったシクル湖。その水面に、自分が浮かぶ姿を思わず想像する。
たっぷりとドレープが作られた、くるぶし丈の純白ドレス。長い袖も袖口にかけて大きく広がっていて、さぞかし花の如く散れるだろう。
そんな私の皮肉を、そうだを言わんばかりに輝く湖面。ああ、こんなときでなければもっと美しく目に映ったに違いない。そう、湖を輝かせるこの太陽が、何日かに一度でも雨雲に隠れてくれていたなら、もっと――
「……え?」
もはや睨み付けていた湖面が不意に翳り、私は思わず空を見上げた。
「⁉」
そして目に入った光景に、声を上げるのも忘れて固まる。
「りゅ、竜だ!」
そんな私の周りで、誰かが私の心の声を代弁した。
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