転生したら竜の花嫁⁉ ~雨乞いの生贄にされた私を捨てられた女なら丁度良いと竜が拾いに来ました~
「さあ、出かけましょう。王都へ向かいます」
「えっ、今? 今からはさすがに時間が遅いんじゃない?」

 レフィーに乗ってひとっ飛びすればすぐなのだろうが、それでも今は既に夕方。本屋も仕立屋も絶対に開いていないと思う。

「ああ。正確には明日の朝からデートを始めたいので、今日のうちに向こうの宿に泊まります」

 何のロケの前乗りだ。
 というか一緒に宿に泊まる時点で、初デートの順序立てを間違っていやしませんか。明日の明日から始めるからそれはノーカンですか、そうですか。
 思い立ったら即行動。予想以上に『即』で驚かされるが、見習いたい部分ではある。

「ときに、ミアは湖では妙な芝居をしていましたよね。儚げな女的な」
「妙な芝居って……寧ろあっちが村の皆から見たアルテミシアよ。レフィーが無遠慮な態度を取ってきたから、こっちも遠慮は要らないと思ったの」

 手籠めされかけてまで「お止めになって」とか、お上品なままでいられるわけがない。もしかすると生粋のお嬢さんならそうしたかもしれないが、生憎私は、お嬢さんでない記憶を取り戻してからの人生の方が長いのだ。

「では今のところ、ここにいる貴女は私しか見ていないわけですか」
「そうね」
「いいですね、それ。ではこの先も私の前でだけ、今の貴女でいて下さい。本当の貴女は、私だけのものです」
「……っ」

 ええい、このイケメンが。絶対、面白がっているだけのはずの台詞に、うっかりときめいてしまうから質が悪い。

「では竜になりますので庭に出ましょう」

 レフィーが先だって歩き出す。
 私は彼に気付かれないよう、その背中に一瞬だけ口を尖らせてみせた。
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