転生したら竜の花嫁⁉ ~雨乞いの生贄にされた私を捨てられた女なら丁度良いと竜が拾いに来ました~
 宿を出てからは、主導権をレフィーにバトンタッチした。何せレフィーから今日のプランを聞いていないので、(ゆだ)ねる他ない。
 今は控え目にレフィーの腕に(つか)まり、並んで幅の広い通りを行く。シクル村の凸凹した道と違い、王都の石畳は平坦で歩きやすい。機械仕掛けの跳ね橋に、街の中心ですと言わんばかりの店舗の並びよう。現在地は多分、中央区の中央通りだろう。
 ここは前世の感覚で言えば、『中世ヨーロッパ風の都市』なんだろうなと思う。街行く人の格好もそれ風で、当然スーツ姿の人なんて一人もいない。高層ビルもないから、エレベーターで「ドキッ 憧れのあの人と二人きり」なんてシチュエーションも発生しない。本当、なんて残念な世界に生まれ変わってしまったのか。

(ううん、諦めては駄目よ。オフィスラブを私が広めればいいのよ)

 そう、前世で『ファンタジーの定番』なるものが存在したように。ここではオフィスラブを異世界の物語として流行らせればいい。
 ぐっ
 私は心の中で拳を握った。

「そういえば、ミア。あの場面では、私が差し出した腕にミアが掴まるはずでは?」

 心の中でだけ握ったはずが、どうやら本物の手もレフィーをぎゅっとやってしまったらしい。
 刺激に反応したレフィーが、私を振り返る。

「あれは、レフィーがいきなり魔法なんて使うからでしょ。って、ああもう地から戻らない。これまでどうやって猫被ってたんだっけ……」
「まあ、もう戻らないでしょうね」
「言い切られた!」
「ミアは今、私とデートがしたいと思っていますし、私と結婚も悪くないなと思い始めているはずですから」
「うん、そうね?」

 唐突に飛んだ話に、意図がわからないままにも、事実だから頷く。

「死ぬことに仕方がないかと思ってしまえるミアは、もういません。もうミアは『これまでのミア』をやりたくないんです。元からやりたくなかったことを、やる必要もなくなった。それはやる気も出ないでしょう」
「それは……でもレフィーが望むように、街にいる間はちゃんとやろうとは思ってて……」

 本題に帰ってきたレフィーの推測に言い訳しながらも、実際はできていないので声が尻すぼみになる。
 最後は最早モゴモゴ言っていただけの私を、先程からレフィーにじっと見られていて、(つら)い。
 うぅ。無言の責めは止めて欲しい……と思ってチラ見すれば、予想とは違い彼は「おや?」という顔(微妙な変化)をしていた。
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