転生したら竜の花嫁⁉ ~雨乞いの生贄にされた私を捨てられた女なら丁度良いと竜が拾いに来ました~
「……ああ、なるほど。そういうことでしたか。どうやらミアを勘違いさせてしまっていたようですね」
「勘違い?」

 「おや?」な表情の理由を教えてくれるも、これがまたまたわからない。

「私が『その貴女は私だけのもの』と言ったから、街にきてからのミアは、また妙な芝居を始めていたんですね。すみません、あれは貴女にそうするように言ったわけではなく、そうなるからと言ったつもりでした」
「そうなる??」

 これでもかというほど、何を言いたいのかわからない。『妙な芝居』より余程妙なことを言い出したレフィーに、私は再び聞き返した。

「貴女が普通に話していても、私以外にはあの口調で聞こえるように魔法を掛けました」
「……は?」
「なので好きなだけ『やばい』や『それな』と言って構いませんよ」
「私そんなに漫画にその台詞入れてた!?」

 あああ……入れてたかも。入れてたかもね。って、そうじゃなく。
 えっ、何それ。答を知れたのに、その答に理解が追いつかないのですが。

「えっと、じゃあ例えば……そう、例えば『へぃ、ラーメン一丁!』って言ったなら?」
「『どうぞ。ラーメンを召し上がれ』、でしょうか」
「何それすごい。やばい」

 あ、本当に「やばい」って言ってしまったわ。そして、ようやく理解した。
 何て素晴らしい魔法なのか。OL時代に電話を取ったらもれなく噛んでいた私に是非欲しかった。

「それと魔法のことですが、あの宿で部屋を取るくらいの人間なら、見たことがあるはずですよ」
「えっ? 寧ろ魔物に縁遠いと思ってたわ」
「魔物には縁遠いでしょう。ですが、魔術士と呼ばれる人間が魔法を使います。私の格好は、彼らを真似たものです」

 アリストテレスのコスプレ的な人が、複数いるという発想はなかった。

「そうだったのね」

 それならあそこまで注目を浴びたのは、中にはレフィーが魔法を使わないかと期待した眼差しもあったのかもしれない。

「ああ、本屋が見えてきました。そこの角です」

 レフィーがうきうきといった感じ(実際は安定の無表情)で、青い屋根の店舗を指差す。

(あ、ここで換金する前だったから昨日はお高い宿に泊まったのか)

 手持ちが金貨だものね。安宿なんかだと、下手すれば宿そのものが買えかねない。

(これは黒曜石以外のハンドメイドも、提案した方が良さそうね)

 昨日から急に増え始めた、心の中の「やりたいことリスト」。私はやや早足になったレフィーに手を引かれながら、また一つ書き加えたのだった。
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