転生したら竜の花嫁⁉ ~雨乞いの生贄にされた私を捨てられた女なら丁度良いと竜が拾いに来ました~
 この店の試着室は、日本にあったような簡易的なものでなく、専用部屋として設けられていた。
 靴を脱いで入る、ふかふか絨毯が敷かれた試着コーナー。そこにある衝立の後ろから、私は出入口側の応接セットをひょいと覗いた。

(レフィー、さっきからずっと商品を売り込まれていない?)

 小声のため内容までは聞こえないが、明らかに上機嫌な店員の声のトーン。応接セットのテーブルには、書類らしき紙が数枚。今もレフィーがペンを手に紙に何か書いている。
 試着する度にレフィーに見せているが、私が声を掛けるまで先程から毎回こんな感じ。これはここに入った際に、彼が「気に入ったものがあれば全部買いましょう」なんていったものだから、上客だと目を付けられたに違いない。
 レフィーはどう見ても労働者階級のなりではないものね。まあそれ以前に人間ですらないけれども。

「ああ、ミア。着替え終わりましたか?」

 五着目――持ち込んだ最後のドレスにして、ようやくレフィーの方から声を掛けてくれた。
 椅子から立ち上がったレフィーが、私の方へと歩いてくる。
 そして、

「とても可愛いですよ」

 彼は褒めてくれた。
 ――前の四着とまったく同じ台詞で。

「……レフィー」

 いつも以上に棒読みに近いそれに、さすがに「ふぅ」っと溜息が出る。

「確かに私は例の本に、『着替えた姿を褒めよう』的なことを書いたけど、別に無理をしてまで言わなくていいからね」

 律儀にやってくれるのはありがたいが、その態度は逆効果だ。
 けどレフィーはこれが初デート。減点なところが見つかって、逆にほっとしたというか何というか。

「無理に言っているわけではありません。ただ、その服を着ていようがいまいが貴女は可愛いので、服を着替えたから言うというのは、しっくりこないなと思っていただけです」
「ぐっ」

 ええぃ、百点満点だよこの天然タラシが……!

「ところで、ミア。今着ている服も気に入りましたか?」
「えっ、ああ、そうね。うん、気に入ったわ」

 夫婦漫才をやっている場合じゃない。そういやこの場には店員さんもいたのだ。買う買わないの意思表示は、早い方がいい。

「では、それも買いましょう。それから、この後はその服でデートに行きますよ」
「わかったわ」

 このまま出かけるというレフィーの意見に、素直に頷く。
 王都でシクル村の慣習を知っている人間に出会うとは思わないが、それでもあの服は『生け贄』の衣装。着ていて気持ちのいいものじゃない。
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