転生したら竜の花嫁⁉ ~雨乞いの生贄にされた私を捨てられた女なら丁度良いと竜が拾いに来ました~
「それで如何でしたか? デートは合格と判断してキスしたのですが」

 レフィーが開いていた本を閉じ、それをテーブルに置いて身体ごと私に向き直る。
 「デートは合格と判断」……うん、確かにデートは満喫したと思う。どころか、オーバーキルされたと思う。

「……うん。すごくよかった」

 まるで夢のようなデートだった。目が覚めたときに「何だ、夢オチか」と半分以上本気で思ってしまったくらいに。
 ふと、レースの手袋を見る。

(初っ端からお伽話のような真似をしてみせるんだもの)

 少し(しお)れてしまった生花に、余韻を楽しみながら私は顔を上げて――

「は……うむぅうっ⁉」

 次の瞬間には、それを台無しにするような声を上げていた。
 近過ぎてぼやけた琥珀色の瞳が、私の視界を埋めていた。

(な、な、何でまたキスされてるの⁉)

 口腔内を蹂躙するように這い回る、レフィーの舌。内側を隅々まで調べるように動くそれに呼吸まで奪われ、あっと言う間に息が上がる。思わずバシバシとレフィーを叩けば、彼が僅かに離れて、しかしその二秒後にはまた口づけられていた。

(違うからっ。訴えたのは息継ぎじゃないからっ)

 今度は私の舌の形でも確かめるかのように、レフィーの舌に私のものが絡め取られる。舌が別の生き物のように責め立ててくるってこういうことか、こういうことか!
 バシバシッ
 叩けばまたレフィーが離れる。

「いいいいいきなり、何っ⁉」

 私の口の端を濡らす唾液を舐め取っていたレフィーに尋ねる。顔が見えるほど離れた彼は、自分の口の端をぺろりと舐めた。
 わざとなの? それはわざとなの? エロスはもう仕舞っておいて! 供給過多ですので!

「したくなったので」
「いやだから何で」
「端的に言うなら――はまりました」
「はまっ……た……とな」
「二回目以降は、制約も制限もなくキスしていいのでしょう?」

 そりゃ漫画には、『初めてのキス』についてしか描かなかったけれど。無理だから。制限なくキスされるとか、無理だから。

「それは……でもほら、折角『おはよう』や『おやすみ』のキスの種類があるんだから、それに沿ってしたいな……とか」

 気が向いたときにするんじゃ、挨拶のキスにならないでしょ? ね? ね?
 レフィーの「実験したい」性格につけ込み、回避を試みてみる。どうか思い留まって!

「……仕方ありません。『おはよう』『いってらっしゃい』『おかえり』『今日も素敵だ』『おやすみ』で、手を打ちます」

 さり気に種類が増えている!

「ずっと傍にいても、『いってらっしゃい』『おかえり』は時間になったら実行します」

 どんだけしたいのさ!

「では今から、『今日も素敵だ』のキスの時間です」
「えっ、ちょっ――」

 抗議する間もなく、私の口が再びレフィーのそれで塞がれる。
 そして案の定そのキスは、挨拶とは懸け離れたものだった……。
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