転生したら竜の花嫁⁉ ~雨乞いの生贄にされた私を捨てられた女なら丁度良いと竜が拾いに来ました~
 挨拶のキスで息も絶え絶えとか、何だそれ。順番的に次に来る「おやすみ」に今から不安を覚えながらも、私はレフィーが淹れてくれた紅茶にありがたく手を伸ばした。

「鉢植え?」

 そこで、テーブルに珍しく本以外が乗っていたことに、今更ながらに気付く。
 十センチ四方の小さな丸鉢は、まだ何も植えていないのか土だけが見えていた。

「ええ。イベリスの花の種を植えました」

 植えていないのではなく、植えたばかりだったらしい。ふとその横を見れば、先程までレフィーが読んでいた本は、花の世話について書かれたものだった。

「ミアが書いた本に、男が女に育てた花を贈っていた場面があったものですから」
「それを真似てくれるんだ?」
「女は喜んでいました。最初から喜んでもらえるものを贈れば、無駄がありません」

 無駄がないときたか。型通りな色恋の語らいではないけれど、そこにレフィーらしさが見えていい。……とか思ってしまったあたり、恋人(正確には夫)の欲目が絶賛発動中のようである。
 でもそれを差し引いても、私に喜んでもらいたいと彼が考えてくれたことが嬉しい。私が好むといったイベリスの花を選んでくれたことも、嬉しさに輪をかけている。
 私は愛しい気持ちで、何とはなしに丸鉢に左手を添えた。

「ありがとう、レフィー。貴方が咲かせた花を贈ってくれるのを、楽しみに待ってる」

 指先で鉢をツンツンしながら、私の方は型通りな返事をする。

「――どうしたの?」

 そう、型通りな、何の面白味もない返事をしたと思った。けれど見上げたレフィーは、目を(みは)って私を見ていた。
 いつも表情がほとんど動かないので、ここまでの変化は初めて目にする。本当に、「どうしたの?」だ。
 私の問いにレフィーが、その表情のまま「……いえ」と小さく言う。
 それから彼は、丸鉢に触れた私の手に自身の手を重ねてきた。

「野生でも咲く花を、わざわざ人間の手で咲かせることに、何の意味があるのかと思っていましたが……」

 レフィーが私の方に身体を寄せる形になり、そのため彼の声がまるで囁いたかのように私の耳をくすぐる。
 穏やかで、先程まで激しいキスを仕掛けてきた人物とは、まるで別人のようで。

「貴女がそうして笑うのなら、意味はあるのかもしれませんね」

 けれど、脳が溶かされるような甘い感覚は、やっぱり同じで。
 まるで表も裏も、どのレフィーも私を好きだと伝えてくれているように感じる。そのことに、嬉しさで身体が震える。私が笑えば意味がある。その解が恋の真似事ではない彼の想いなことに、愛しくて心が震える。
 こんなとき、私は漫画でヒロインの心情をどう表現しただろう。まったくといっていいほど、思い出せない。
 当事者になってみても、いや当事者だからこそ客観的に見られなくて、わからない。

(好きだなぁ……)

 わかるのは、私が描いたどのヒーローよりも、レフィーが素敵だということだ。
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