転生したら竜の花嫁⁉ ~雨乞いの生贄にされた私を捨てられた女なら丁度良いと竜が拾いに来ました~
「読みたかったって、表紙にタイトルも書いてないのに……」
「そこに見たことの無い本があるなら、読むしかないでしょう」

 山を前にした登山家か、貴方は。
 うぅ、本当に何てこと。衝撃から立ち直れない。レフィーの顔が見られない……。

「初めてミアに会った日、私は貴女とその場で番おうとしました。今思うと、酷いことをしようとしていたと思います。申し訳ありません」
「えっ」

 目まで瞑って外界をシャットアウトしていたところ、突然のレフィーの謝罪に私は思わず目だけは開けた。

「私が読んだあの物語は、幸せな結末を迎えるものではありませんでした。だから、参考にすべきではなかったのです。私は貴女が幸せであることを望んでいます」
「レフィー……」

 続けてやはり突然にレフィーから真摯な言葉が来て、両手も顔から外して彼を見る。

「その点、貴女が描いた物語は最高の教材ですね。貴女が描いたくらいです、貴女の望みが反映されているはず。まさに私のために存在するような本ですね」
「いっ⁉」

 ジーンと感じ入っていたのも一瞬、私は衝撃のあまり忘れかけていた身の危険を思い出した。
 本をテーブルに置いたレフィーが、再び固まっていた私の両肩に手を置く。そのままジリジリと距離を詰めてきた彼との間合いを、私は仰け反ることで確保した。

「待って、落ち着いて」

 「私の望みが反映されている」という指摘そのものは合っている。が、その本に限らず、自分が主人公になりたいかどうかというのはまた違う。
 差し当たって私は、そこに描いたレベルの濃密ラブストーリーは求めていない。決して求めていない。

「レフィー。この物語はフィクションであり、実在の人物団体とは一切関係ありません」
「わかりました。好くなさそうなら、その時点で止めます」
「いやいやいや、わかってないよね⁉ 駄目だって言ってるよ、私は」
「それは貴女の身体に聞くことにしましょう」
「ちょっ」

 誰だこの男に、そんなお約束なエロ台詞吹き込んだ奴! 私だ!
 とうとう仰け反る限界――背中がソファに付いて、私は天井を背にしたレフィーを見上げる形になった。
 絶体絶命。この男はやると言ったらやる。何せ先日も、裁縫について書かれた本の『簡単に針に糸を通す方法』という項目を読んだ後、「もっと効率の良いやり方があるのでは」と五時間ひたすら針に糸を通していた男なのだから。

「あ、う……」
「……えーと、これは……俺は助けるべき?」

 まな板の鯉な私の耳に、不意に第三者の声が届いた。
 幻聴が聞こえるほどの危険度とか、やばい。そう思いながらも、寝転がったまま怖いもの見たさで声のした方に目を遣る。
 そして――

(幻覚……じゃない、本物だ!)

 私は思わず目を見開いた。
 天地が逆転した視界の先、見知らぬ銀髪の青年が立っていた。
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