転生したら竜の花嫁⁉ ~雨乞いの生贄にされた私を捨てられた女なら丁度良いと竜が拾いに来ました~
「あの……私、魔物を食べちゃったことあるんだけど。あと、シクル村では魔物素材の加工が結構盛んだった」

 食材になった魔物の毛皮なり羽根なりは、家具や生活道具の材料として当たり前のように使われていた。安価な製品の材料は、大抵が魔物素材だ。レフィーが街で選んだ服はどれもお高い品だったので、違うとは思うが。

「人間でなくとも魔物を狩る者はいますよ。残骸を取っておく人間に対し、そちらは食べるものを食べたなら後は土に返しているだけです。私は人間は好きではありませんが、死体を身に(まと)う彼らを悪趣味だと思いはしても、それ以上の感情は特に持っていないですね」

 レフィーが流れるように話す。
 それを「確かに兎っぽい魔物を狼が食べていたな」と思いながら聞いて――そこで私は、はたとなった。

「もしかしてレフィーは、人間が嫌いなの?」

 そこもサラッと話していたが、当事者の人間的にはここは聞き流してはいけない。今の言い方からして、『悪趣味』以外の理由があるということだ。
 レフィーは過去に、人間に何かされたのだろうか。気軽に聞いてしまったけれど、実は深い心の傷とかが――

「基本的にはそうですね。私が気分転換に竜の姿に戻った途端、どこからともなく現れた人間が『腕試し』とやらで死にに来るんです。迷惑です」
「……ん?」
「こちらはわざわざ、高山の頂上や洞窟の最奥など人目に付かない場所を選んでいるというのに。何なのでしょうね、あれは」
「あー……」

 うん。それは本当に何なんだろうね。でもそのシチュエーション、光景がありありと浮かぶくらい見覚えがある気がする。

「積極的に殺しに行くようなことはしませんが、向こうからちょっかいを出してきたなら潰します。ミアが耳元で飛ぶ羽虫を追い払うのと同じです」
「あー……」

 それは嫌いだし、場合によってはバチンと行くかもしれない。
 そして羽虫は嫌いなのに、同じ虫であっても蝶は綺麗だと思う。……なるほど、そういう感覚か。私は蝶か。

「人間が好きじゃなくても、人間が番ってことがあるんだな」

 陛下がプレッツェルのような菓子をポリポリと食べながら、会話に入ってくる。
 抱えた籠の中のお菓子、半分は無くなったように見えるのですが、陛下?

「ミアは本を書く人間なんですよ。それも他に類を見ない手法で」
「ああ、それで差し引きプラスなわけだ」
「生まれて初めて誰かを尊敬しました」
「俺が尊敬されてなかった事実は、知らないままでいたかった……」

 今度はクッキー二枚にプレッツェルを挟むようにして持って食べた陛下。籠は相変わらず抱えたままだし、私も尊敬の念を感じるかというと難しい……。お仕事モードのときは、しっかりしているのかもしれないが。
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