転生したら竜の花嫁⁉ ~雨乞いの生贄にされた私を捨てられた女なら丁度良いと竜が拾いに来ました~
「まあいい。取り敢えずシナレフィーが、気まぐれで(さら)ってきたわけじゃないことはわかってよかった」
「攫ってきたのではありません。ミアは湖で拾ったんです」
「いやいやいや、落ちてないだろ。普通に考えて」

 即座にレフィーにツッコミを入れている陛下は、レフィーよりは常識人なのかもしれない。お菓子を食べるスピードはともかく。

「経緯がどうであれ、シナレフィーの番ってことは今後もずっと一緒にいるんだろう? よろしくな、ミア」
「陛下、ミアというのは彼女の愛称です。陛下は呼ばないで下さい」

 私が「こちらこそ」と返事をする前に、レフィーに割り込まれる。確かに初日に愛称は『特別な呼び名』とは言ったけれど……幾ら幼馴染みとはいえ、さっきからここまで不敬な態度で大丈夫なのだろうか。

「そうなのか。なら本名を教えてくれ」
「……この場合、新たに本名を教える方が癪ですね。もうミアと呼ぶので構いません」

 もうこれ不敬どころか友人としてもどうかと思う態度なのだけど、大丈夫なのだろうか。

「シナレフィーがこんなに夢中になるなんて。ミアはすごいんだな!」
「えっ、あ、ありがとうございます」

 この流れでそんな結論が導き出されるとか。間違いない、この人は良い人だ。寛大過ぎて、レフィーとは違う意味で大丈夫なのかとは思うけれど。

「ところでシナレフィー。ここまで来たついでにまた聞いてみるんだが――」
「手伝いならしません、計画自体は賛同しますが。別段、欲しい報酬もありませんので」
「手伝い? 計画?」

 陛下が言った(正しくは言ってすらいない)(そば)からすげなく断ったレフィーの言葉を、私は拾った。
 計画の手伝い。これってもしや、私が求めていたキーワードでは。誰かの役に立つ機会では。
 陛下からの依頼とならば、貢献の中でも社会貢献にあたる可能性大。レフィーも計画自体は賛同と言っているので、反対はされないはず。
 これはまさに渡りに船だ。今こそ自堕落な生活から抜け出すとき。

「陛下、私でも手伝えることはありますか?」
「! あるある」

 私の申し出に、陛下が飛び付くように言って菓子の籠を元あったワゴンに戻す。
 それから彼は、懐から紙を数枚取り出した。

「進んでやってくれるなんて、ミアは優しいんだな。どれを頼もうか……」

 その紙は、やることリストか何かだろうか? のほほんとした印象の陛下だけれど、案外多忙なのかもしれない。

「俺だけだと何百年かかるかわからなかったから、助かる」
「何百年……」

 ドキュメンタリー番組もびっくりの長期計画ですね、それは。
 かもしれないどころか、陛下は思った以上にご多忙なようだった。
< 30 / 72 >

この作品をシェア

pagetop