転生したら竜の花嫁⁉ ~雨乞いの生贄にされた私を捨てられた女なら丁度良いと竜が拾いに来ました~
「胡蝶蘭草で必要なのは、この花弁だけですので」
「それは聞いてたけど……聞いてたけど、折角綺麗なんだから陛下も咲いたところが見たいかと思ったのに」
「そうですね。彼なら大袈裟なほどに喜んでくれるでしょう」
「それわかった上でブチッとやったの……」

 しれっと答えたレフィーに、衝撃が薄れて代わりに呆れがくる。
 もしかして私が思っているより陛下とは仲が良くないんだろうか。それとも陛下を上げて落としたときのリアクションが見たいとか。
 「綺麗に咲いていました」「そうなのか、今から見に行く」「いえ、ここにあります」「⁉」「綺麗に咲いて()()()()」「……」――小劇場、完。的な。
 ……あ、本当に上演されそう、この演目。

「……癪なので」

 うっかり演目のタイトルまで考えかけていたところ、レフィーがボソッと呟く。
 「うん?」と首を傾げて見せれば、珍しく彼はふいっとそっぽを向いた。

「私にできないことを別の男がミアにするのは癪なので、咲いている花は見せません」
「うんん?」

 そっぽを向いたままでレフィーが言い、あげく早足で庭を出て行った。

「ええー……」

 友人との不仲説でもなく、レフィーの悪趣味説でもなく、正解は『拗ねていた』でした! ……わからないって、それは。

(でもそうか。感情が顔に出にくいこと、気にしてたんだ。意外)

 私がポーカーフェイスに憧れていた面もあって、レフィーにそんな悩みがあることに全然気付けなかった。好きなものを前にしたときはともかく、嫌いな人を前にして顔に出てしまうことは、私は本当に困っていたから。
 それを自覚していたので、嫌いな人と鉢合わせそうな機会は、できる限り避けていた。そうやって逃げていたから、いつまで経っても改善されなかったともいう。

(んー、でもレフィーのは私の場合と違って、繕ってはいないのよね)

 レフィーは感情が顔に出にくいことを自覚はしていても、繕おうとしていたことは無いと思う。だからしばらく側にいれば、無表情の向こうにいる彼がちゃんと見えてくる。
 陛下は勿論、私も結構わかってきたと思う。そして一度わかってしまえば、レフィーは結構感情豊かだ

(知らぬは本人ばかりって奴ね)

 運良くほとんど水を零さずに落ちていたジョウロを拾う。
 それから私はまだ蕾の胡蝶蘭草に、鼻歌交じりで水遣りを再開した。
< 32 / 72 >

この作品をシェア

pagetop