転生したら竜の花嫁⁉ ~雨乞いの生贄にされた私を捨てられた女なら丁度良いと竜が拾いに来ました~
雷竜の『雷』
(よし、今日の分は完了っと)
私は手にしていたジョウロを元の場所に戻し、空を見上げた。
暮れかけた赤色の空に、個人的に定めた『定時』に今日も間に合ったと、にんまりする。
大分、要領を掴めてきたと思う。ここらで工程について、新しい順序なり組み合わせなりを考えてみてもいいかもしれない。
私は頭の中で一日の流れを復習いながら歩いて――
「わふっ」
柔らかい壁に顔面からぶつかった。
「レフィー」
一番被害が大きかった鼻をさすりながら、『壁』の名前を呼ぶ。
一緒に帰るために私を迎えに来たのだろう。家から魔王城までそう遠くもないというのに、彼はこの十日間欠かさず中庭まで私を送り迎えしてくれていた。
「ミア。休日はいつなんです?」
「え?」
てっきりいつも通り「さあ帰りましょう」と来ると思ったのに。予想外の問いが来て、私は反射的にレフィーに聞き返した。
「ミアの漫画では、七日に一度休日がありました。それなのに今日はもう十日目です」
少しムッとした感じの口調で、レフィーが言う。
「人間は働き過ぎると、死んでしまったり自殺を考えてしまうんでしょう?」
次いでやや戸惑った風に、彼がそう付け加える。どうやら自分が面白くないということではなく、純粋に心配してくれていたようだ。でもって、少々偏った知識を与えてしまったようです、はい。
「十連勤ではあるけど、毎日定時帰宅してるから大丈夫よ。一日空いても枯れる種類があるから、その触媒の収穫が終わったあたりで休みを――」
「却下します」
「⁉」
話しながら予想される日数を指折り数えていた私は、中指を折ろうとして動きを止めた。
いや、「止めた」ではなく「止められた」が正しい。絶対零度の低音ボイスの圧で、私は指はおろか全身が硬直させられた。
(そそそ、そんな声も出せた……のね?)
いつもの抑揚のない口調が醸し出す冷たさなんて、比じゃない。これは凍える、凍り付く。書き入れ時の旅行会社なんて三十連勤とかザラにあるし……なんて話は、最早できる雰囲気ではない。
「やはり彼はミアに話していなかったのですね。魔王城、陛下を今すぐここに呼んで下さい」
ヒョオオ……という擬音でも付きそうな氷のオーラを放ったレフィーが、斜め上辺りを見上げて言う。さすがファンタジー世界と言うべきか、魔王城は会話ができるらしい。実際、私にも『ほいよー』という声が聞こえた。
腕組みして、待ちの体勢に入ったレフィー。それでも氷のオーラは止まらない。貴方、雷竜じゃなかったですか? 芯から凍えかねないので距離を取りたいけれども、それをやったら火に油を注ぐ形になりそうなので止めておく。
幸いなことに、相当お怒りに見えるレフィーと二人きりという状況は、そう長くは続かなかった。というか、私が「気まずい」と心の中で悲鳴を上げたのとほぼ同時に、目の前にいきなり陛下が現れた。
私は手にしていたジョウロを元の場所に戻し、空を見上げた。
暮れかけた赤色の空に、個人的に定めた『定時』に今日も間に合ったと、にんまりする。
大分、要領を掴めてきたと思う。ここらで工程について、新しい順序なり組み合わせなりを考えてみてもいいかもしれない。
私は頭の中で一日の流れを復習いながら歩いて――
「わふっ」
柔らかい壁に顔面からぶつかった。
「レフィー」
一番被害が大きかった鼻をさすりながら、『壁』の名前を呼ぶ。
一緒に帰るために私を迎えに来たのだろう。家から魔王城までそう遠くもないというのに、彼はこの十日間欠かさず中庭まで私を送り迎えしてくれていた。
「ミア。休日はいつなんです?」
「え?」
てっきりいつも通り「さあ帰りましょう」と来ると思ったのに。予想外の問いが来て、私は反射的にレフィーに聞き返した。
「ミアの漫画では、七日に一度休日がありました。それなのに今日はもう十日目です」
少しムッとした感じの口調で、レフィーが言う。
「人間は働き過ぎると、死んでしまったり自殺を考えてしまうんでしょう?」
次いでやや戸惑った風に、彼がそう付け加える。どうやら自分が面白くないということではなく、純粋に心配してくれていたようだ。でもって、少々偏った知識を与えてしまったようです、はい。
「十連勤ではあるけど、毎日定時帰宅してるから大丈夫よ。一日空いても枯れる種類があるから、その触媒の収穫が終わったあたりで休みを――」
「却下します」
「⁉」
話しながら予想される日数を指折り数えていた私は、中指を折ろうとして動きを止めた。
いや、「止めた」ではなく「止められた」が正しい。絶対零度の低音ボイスの圧で、私は指はおろか全身が硬直させられた。
(そそそ、そんな声も出せた……のね?)
いつもの抑揚のない口調が醸し出す冷たさなんて、比じゃない。これは凍える、凍り付く。書き入れ時の旅行会社なんて三十連勤とかザラにあるし……なんて話は、最早できる雰囲気ではない。
「やはり彼はミアに話していなかったのですね。魔王城、陛下を今すぐここに呼んで下さい」
ヒョオオ……という擬音でも付きそうな氷のオーラを放ったレフィーが、斜め上辺りを見上げて言う。さすがファンタジー世界と言うべきか、魔王城は会話ができるらしい。実際、私にも『ほいよー』という声が聞こえた。
腕組みして、待ちの体勢に入ったレフィー。それでも氷のオーラは止まらない。貴方、雷竜じゃなかったですか? 芯から凍えかねないので距離を取りたいけれども、それをやったら火に油を注ぐ形になりそうなので止めておく。
幸いなことに、相当お怒りに見えるレフィーと二人きりという状況は、そう長くは続かなかった。というか、私が「気まずい」と心の中で悲鳴を上げたのとほぼ同時に、目の前にいきなり陛下が現れた。