転生したら竜の花嫁⁉ ~雨乞いの生贄にされた私を捨てられた女なら丁度良いと竜が拾いに来ました~
「では、ミアが求めている『軽め』の内容を聞かせて下さい。正直、私には恋とはどういった状態なのか、今ひとつ理解できていませんので」

 会話に適さない距離のままに、レフィーが尋ねてくる。
 聞かせて下さいと言うのなら、もっと聞く体勢になって欲しい。今の貴方の体勢は、手を付いていないだけで完全に壁ドンのそれである。
 でもそうか。具体例を提示すればいいのか。「どう……」と顎に手を当て、考えてみる。
 『恋人とやってみたいデート』に関しては、例のレフィーのパーフェクトエスコートによって完遂された。なので物足りないと感じるのは、計画的ではなく衝動的。技術的ではなく内面的。そういった部分というか。
 あれだ。出会ってからデートまでの、両想いだなんて嬉しいなっていう浮かれた気分、求む。

「……例えばこう、無性に抱き付きたくなるとか『好き』と言いたくなるとか……そういうの」

 うん。これだ。言葉にして、しっくりきた。
 甘酸っぱい雰囲気。欲しいのはこれだよ、これこれ。

「そうですか。ではミアが、やってみせて下さい」
「えっ」
「私に抱き付いて、『好き』と言ってみて下さい」
「⁉」

 ……しまった。そうだった。何でも試したくなる人だった、この人。
 つい最近も、マッサージを覚えたというレフィーの実技によって、眠りに落とされたんだった。起きたら生まれ変わったかのようなレベルで、スッキリしていたんだった。

(実演してみせてと来たかー……)

 そりゃ私も王都で散々、レフィーにやってもらいましたけれども。
 でもこう、「いつでもどうぞ」な感じで構えている相手に、甘酸っぱい雰囲気を出すとか無理がありませんかね。

(言っても仕方がないか……ええいっ、ままよ)

 ボスッ
 その胸に額から突撃しまして。
 むぎゅっ
 そこから両手を背中に回しまして。

「す、す、好き‼」

 そしてシンプルな思いの丈をぶつける! これでどうだ!

「……」
「……」

 ……いや、うん。我ながらやけっぱち感がすごい。「どうだ!」じゃないわ。

「……」

 さらにはこのレフィーの無反応。……辛い!
 恋の手本を見せるはずが、『照れ隠しで中途半端なことをしたせいで、余計に恥ずかしいことになった』手本を披露してしまった。

「あれだけ恋愛について書かれた貴女の本を読んだはずなのに、今の感情を表す言葉が見つかりません」

 重度の本の虫すら悩ませる謎行動を取って申し訳ない。あと、レフィーの声のトーンからして、見えないけれどおそらく真顔で言っている。
 取り敢えず実演はした。したにはした。もう離れてもいいかしら。
 私はレフィーの背中から両手を離し、次いで額も離そうとして――したところで、レフィーに抱き締められた。

「レフィー?」
「このままでいたい……千年くらい」

 いやそれは長過ぎでしょう。
 ぎゅう
 ぎゅっ
 ぎゅうぅ
 微妙に角度や力加減を変えながら、レフィーがさらに抱き締めてくる。
 あ、これ一番良い(あん)(ばい)を確かめている動き。一ヶ月以上一緒にいて、私も大分わかって来ましたよ。
 もう二種類ほど試した後に納得が行ったのか、レフィーはそっと解放してくれた。本当に千年ホールドされなくてよかった。
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