転生したら竜の花嫁⁉ ~雨乞いの生贄にされた私を捨てられた女なら丁度良いと竜が拾いに来ました~
 レフィーが離してくれたので、私も彼の胸から離れて最初の位置へと戻る。
 トンッ
 最初と違うのは、今度こそレフィーが壁ドン(両手バージョン)をしてきたということ。

「言葉は見つからなくとも、私は貴女の価値をわかっているつもりです」

 近い。近い。訴えたいのはわかった。もう少し離れよう?

「貴女を得ることでしか知りうることのなかった感情の価値を、私はわかっているつもりです」
「感情の、価値……」

 続けられたレフィーの言葉に、ドキリとする。

(レフィーにとっては、感情も『知識』?)

 デートに付き合ってくれたのも、今離れたくないと思ってくれたことも、ただ彼の『知識』を充実させるもの?
 だとしたら、彼が口にした『貴女の価値』と『感情の価値』は、果たして別物なのだろうか。新しく手に入れた私が面白いから、新しいことを私が提案するから……目を背けていた『実験』と同じ線上に、私は立っていないだろうか。
 このもやもやとした気持ちは、前にもあった。表面に出ないだけで、ずっと(くすぶ)っていたことも知っている。
 どこか決着を付けない限り、きっとずっとこのままだ。
 私は一度キュッと口を引き結び、それから「レフィー」と彼の名を呼んだ。

「レフィー。子供ができたら……『実験』が終わったなら、私は用済みなの?」
「え?」

 意を決してレフィーに尋ねて、それに対し考えてもいなかったというふうに目を(みは)った彼に、少しほっとする。
 これまでずっと私は、自分の趣味をレフィーに押し付けてきた。私は恋愛がしたくて、だからレフィーの『面白いことを試したい』という性格に付け込んで、やってもらっていた。
 実際、面白がってくれていたとは思う。でも、私が彼の実験を拒む意図でもってそうしたことに変わりはない。
 私は、彼のデートで満足して。彼との新しい生活も充実していて。でも、レフィーは? 私と結婚して、彼は何を得しただろう。

「レフィーは種族的に私としか子供を作れないから、私が必要で。私はそれを盾に、レフィーの実験を先延ばしにしてばかりいる。それなのに、レフィーは自分の意思で私を喜ばせようとしてくれる。私はいつだって欲しがるばかりで、レフィーに何かしてあげようとしていない」

 そんな私なんて、いる? 最後の一言は、口にはしなかった。
 困らせるだけの問いであったし、「それもそうですね」と返されることも怖かった。
 顔向けができない。そんな気持ちに呼応してか、気付けば私の視線はレフィーの顔から肩に移っていた。
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