転生したら竜の花嫁⁉ ~雨乞いの生贄にされた私を捨てられた女なら丁度良いと竜が拾いに来ました~
「まあ、ミアが自分の感情に焦点を当て過ぎなのはそうですね」
「……っ」

 視界の端でレフィーが嘆息したのが見えて、またも気持ちとともに視線が床まで落ちる。

「だから、貴女は『自分の意思を持って相手を喜ばせる』ことに固執しているわけです。貴女には、それが必要ないのに」
「……」

 それはやはり私の最終的な役割が、実験対象だからだろうか。
 それ以上の価値を望むのは、無理なのだろうか。
 嫌だ。だって、私はレフィーが好きだ。以前は、ただ恋愛結婚がしたいと思っていた。だけど今は、レフィーでないと嫌だ。でも、どうしたら……。
 ぐらぐらとし始めた私の頭に、レフィーの右手がポンと置かれる。その手が、心地良い加減で撫でてくる。一緒に暮らすようになって何度となくされてきたこれだって、大好きなのに。

「……先日も聞き流していましたよね、貴女は。私は、貴女を愛でることで私の心が穏やかになっていると言ったはずです。貴女に触れることで、満たされるとも。何故、『意思を持って』私を喜ばせる必要があるのですか?」
「それは……だって、そういう心構えでいないと。私がレフィーの番になれたのは偶然で、その偶然は降って湧いた幸運だから」
「そういうところですよ」

 呆れたような口調で言ったレフィーの手が、軽くクシャクシャと私の髪を掻き乱す。

「私に何もできていないと悩んで、私とこうしている現状を幸運だと言っている。そんなことを言われて、私が嬉しくないはずがないでしょう。わかりやすく私を好きだと示してくれる貴女を、用済みと思う日など来るはずがないでしょう。私にも愛しい相手から愛されたい欲はあるんです」
「……子供から愛されたら、満足するかもしれない」

 レフィー手が、髪を撫でながら左耳まで降りてくる。その優しい手つきが私には不相応に感じられて、私は逆側へと顔を背けた。
 拗ねているとわかっている。離れたレフィーの手が追ってくれるか、試すような真似をしているとわかっている。ちゃんとまた撫でてくる彼の手に安心している、どうしようもなく欲しがりな自分もわかっている。

「子供はそのうち自分の一番を見つけます。一方、貴女の一番は私である可能性が望めます。客観的に損得を考えても、私が貴女を見限る理由は見当たりません」
「……可能性が望める、くらいであっても?」

 試して、レフィーが応えて。それなのに食い下がってしまう私のどこが、『愛しい』というのだろう。
 こうして真摯に私を解きほぐそうとしてくれる彼に、こんな可愛くない態度しか取れない私の、どこが。
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