転生したら竜の花嫁⁉ ~雨乞いの生贄にされた私を捨てられた女なら丁度良いと竜が拾いに来ました~
(ガン見だよ……)

 一応気を遣ってなのか、それとも全体像を把握したいからなのか、レフィーは対角線上の端まで下がっていた。そこで右手を顎に置き、左手は右肘に添えて。推理でも始めそうなスタイルで私を見ている。左腕に掛けられた事務服が、探偵のコートにさえ見えてくる。
 これは、今着ているワンピースの脱ぎ方もチェックしている様子。そうか、人間の女の着替えを見るのは初めてだろうし。何でも試したいレフィーの興味は引くかもね。
 しかし、脱衣シーンで中身ではなく服が主役とは……。いえ、ね。私もレフィーのスーツに大いに反応していたけどね。って、そうだよ、レフィーの着替えも見ておけばよかった。くっ、一生の不覚……!

「レフィー。はい、交換」
「どうぞ」

 達観してテキパキとワンピースを脱いだ私は、それをレフィーに差し出し、代わりにまずはタイトスカートを受け取った。
 ワンピースの下には、太股まであるロングキャミソールを着ている。よって、壁を背に着替えたならば、レフィーの位置からはショーツは見えない。
 前世において暑い日は、キャミソールにショートパンツで過ごしていたこともあったのだ。これは部屋着、これは部屋着……自分に言い聞かせながら、手早くスカートを穿いてしまう。
 やはりレフィーが私をガン見していて、あげくその後は交換したワンピースをまじまじと見ていた。店で私の服を選んでいたときもこんな感じだったが、脱いだばかりの服でやられるのは、ちょっと……。例の亜空間収納に早く仕舞って? お願い。
 ガン見に願見で返せば、私の心を汲んでくれたのかレフィーがポイッと収納してくれた。気掛かりが消えたところで、ブラウスを受け取って袖に腕を通す。

(何て、滑らかな肌触り。これもまたきっとお高いですわ……)

 八つあるボタンを上から順に留めながら、私はしみじみと感じ入った。
 次いで、ブラウスを着終えたジャストタイミングで渡されたベストを着る。大きめのボタンを三つ留め、リボンスカーフをキュッと巻いて。仕上げにパンプスを履く。
 これにて、着替え完了。
 いつも(かかと)がぺたんこのサンダルを履いているので、少し高い目線が新鮮だ。

「着替え終わったようですね。では……」

 レフィーが私のサンダルを収納しながら、再び操作盤の辺りを触れる。
 と、同時に、周辺の景色は一変した。

「えっ⁉」

 人工的な光を放っていた箱の内部に、自然光が降り注ぐ。
 見回せば、階数表示箇所と操作盤を残した側面すべてが、硝子のように透明になっていた。

「まさかのお洒落エレベーター仕様……庭が見える……」

 そっと地上を見れば、『2』の階数になっている現在は、箱一つ分くらい浮いていた。
 八階まであるようなので、となると最上階は地上約十四メートルということに。……どうして本気を出したんだ。
 そう思ってレフィーを見れば、何の以心伝心か、彼はポチッと『8』を押した。
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