転生したら竜の花嫁⁉ ~雨乞いの生贄にされた私を捨てられた女なら丁度良いと竜が拾いに来ました~
「……エレベーター、楽しい?」
ぐるりと一回りしながらエレベーターの隅々まで触った陛下は、最後に操作盤を見つめながらレフィーに尋ねた。
言葉少ななその一言に込められた陛下の望みが、私にも伝わってくる。
「楽しいですよ。でも、陛下は乗せません」
にべもなく断られた陛下の悲しみも、私に伝わってくる。
「今じゃなくていい。後で俺一人でいいから、乗ってみたい」
陛下が食い下がる。そんなに乗ってみたいの? エレベーター。陛下、自分で飛べるのに……。
「陛下は遊んでいる暇なんてないでしょう」
「ちょっとだけだって」
「百年前、同じ台詞を言いながら三日徹夜で人間とボードゲームをしていましたよね」
「今度こそ、本当にちょっとだって」
「却下します。一刻も早く、魔界に帰る手筈を整えていただかないと」
百年前の話を出すとは、レフィーも陛下も少なくとも百歳以上なのか。竜はとても長生きな種族なようだ。
――それはさておいて。
「魔界って?」
私は二人の会話に出てきた気になる単語を、挙手とともに質問した。
レフィーと陛下が、ほぼ同時に私を振り返る。
「ああ、俺たちの故郷はここじゃない世界にあるんだ。で、俺の代で皆一緒に帰る計画を立てていて。ミアに頼んでいる植物の世話も、その計画の一環としてのものだ」
「ミアは私の番なので、魔界に連れて帰ります。重力や大気中の成分など、オプストフルクトとそう変わらないので、環境の変化の点に置いては心配はありません」
「そうなんだ」
「そうなんだよな……世界規模の大仕事なんだよな……頑張るか」
陛下が、一人頷きながら言う。それからエレベーターを名残惜しそうに最後に一撫でして、彼は帰っていった。
「私が世話している植物って、そんな大層なものだったのね……」
ここじゃない世界に帰る、なんて。何とも壮大な計画だ。
にしても、カルガディウムに引っ越したと思えば、また引っ越しになるのか。それも今度は世界からして違う場所に。
まあ今更、故郷に未練はないけれども。お別れした理由が理由なだけに。
と思いつつも、何とはなしに故郷のある方角を見遣ってしまう。
「……え?」
瞬間、目に飛び込んできた光景に、私は思わず立ち上がった。
雲一つない、抜けるような青空。その先に見える、一箇所だけ異様な雨雲が掛かった場所。
嫌でも目に留まり、目を離せなくなったその場所を、私は凝視した。この景色を知っていると訴える自分の心に従い、記憶を手繰り寄せる。
そうだ、確かに私は見た。私がシクル村を出た日に、レフィーと初めてあった日に。
(まさか……)
まだ座ったままだったレフィーを見下ろす。目で尋ねる。
「ミアを殺そうとした人間たちです。ミアと引き換えに得た雨で、同様に殺されればいいのでは?」
そして私は「まさか」が的中したことを、彼の言葉によって知らされた。
ぐるりと一回りしながらエレベーターの隅々まで触った陛下は、最後に操作盤を見つめながらレフィーに尋ねた。
言葉少ななその一言に込められた陛下の望みが、私にも伝わってくる。
「楽しいですよ。でも、陛下は乗せません」
にべもなく断られた陛下の悲しみも、私に伝わってくる。
「今じゃなくていい。後で俺一人でいいから、乗ってみたい」
陛下が食い下がる。そんなに乗ってみたいの? エレベーター。陛下、自分で飛べるのに……。
「陛下は遊んでいる暇なんてないでしょう」
「ちょっとだけだって」
「百年前、同じ台詞を言いながら三日徹夜で人間とボードゲームをしていましたよね」
「今度こそ、本当にちょっとだって」
「却下します。一刻も早く、魔界に帰る手筈を整えていただかないと」
百年前の話を出すとは、レフィーも陛下も少なくとも百歳以上なのか。竜はとても長生きな種族なようだ。
――それはさておいて。
「魔界って?」
私は二人の会話に出てきた気になる単語を、挙手とともに質問した。
レフィーと陛下が、ほぼ同時に私を振り返る。
「ああ、俺たちの故郷はここじゃない世界にあるんだ。で、俺の代で皆一緒に帰る計画を立てていて。ミアに頼んでいる植物の世話も、その計画の一環としてのものだ」
「ミアは私の番なので、魔界に連れて帰ります。重力や大気中の成分など、オプストフルクトとそう変わらないので、環境の変化の点に置いては心配はありません」
「そうなんだ」
「そうなんだよな……世界規模の大仕事なんだよな……頑張るか」
陛下が、一人頷きながら言う。それからエレベーターを名残惜しそうに最後に一撫でして、彼は帰っていった。
「私が世話している植物って、そんな大層なものだったのね……」
ここじゃない世界に帰る、なんて。何とも壮大な計画だ。
にしても、カルガディウムに引っ越したと思えば、また引っ越しになるのか。それも今度は世界からして違う場所に。
まあ今更、故郷に未練はないけれども。お別れした理由が理由なだけに。
と思いつつも、何とはなしに故郷のある方角を見遣ってしまう。
「……え?」
瞬間、目に飛び込んできた光景に、私は思わず立ち上がった。
雲一つない、抜けるような青空。その先に見える、一箇所だけ異様な雨雲が掛かった場所。
嫌でも目に留まり、目を離せなくなったその場所を、私は凝視した。この景色を知っていると訴える自分の心に従い、記憶を手繰り寄せる。
そうだ、確かに私は見た。私がシクル村を出た日に、レフィーと初めてあった日に。
(まさか……)
まだ座ったままだったレフィーを見下ろす。目で尋ねる。
「ミアを殺そうとした人間たちです。ミアと引き換えに得た雨で、同様に殺されればいいのでは?」
そして私は「まさか」が的中したことを、彼の言葉によって知らされた。