転生したら竜の花嫁⁉ ~雨乞いの生贄にされた私を捨てられた女なら丁度良いと竜が拾いに来ました~
(邸に向かっている?)

 麻袋を担いだ泥棒が、村の外れに向かう道を歩き出す。私が暮らしていた叔父さんの邸は、少し離れた小高い丘の上にある。泥棒が歩く先にある家となると、そこしかない。最も、知らずに道があるから辿っているだけの可能性もあるが。
 私はレフィーを見上げて、あっと思って直ぐさま視線を外した。無意識で彼を頼ろうとしていた自分を、恥じ入る。

「どうしました? あの者を追い掛けたいのでしょう、行きますよ」

 ほんの一瞬見ただけだったのに、レフィーは的確に私の気持ちを読み取っていた。
 そんな彼をもう一度見て、でもやっぱり居心地が悪くて逸らしてしまう。

「泥棒が襲ってきたら、私はきっとレフィーをアテにしてしまうわ。ここに来るのでさえ、貴方が嫌がるのを無理にお願いしたのに」

 レフィーが初日からしたいと言っていた実験さえ、私の都合で彼は先延ばしにしてくれた。そんな私に甘い彼が断ったことを、私は無理に押し通したのだ。これ以上はと、どうしても思ってしまう。
 それなのに、レフィーは私が逃げた視線の先に手を差し出してくれた。

「あれは村の状況を確認する前だったからです。噂では聞いていたものの、本当にもぬけの殻かどうかはわかりませんでしたから。もし違って死体が転がっていたなら、そんな場所にミアを連れて行きたくなかっただけです」
「! そう……だったの」

 さあこれで憂いは無くなったでしょうと言うように、レフィーが差し出した手を上下に動かしてみせる。
 けれど、どこまでも優しい彼に、私の躊躇(ためら)いは却って大きくなってしまった。
 いつだって私のことを考えてくれていたレフィーを、私が一方的に責め立てた事実は変わらない。

(何時間も、レフィーが悪者のように責めてしまった)

 そもそも雨を止ませないという村への報復だって、私の代わりにやっているようなものだ。私と出会うまで、レフィーはシクル村との接点なんてなかったのだから。
 殺されかけた私が、そのことで悲しんだ。だから彼は、報復した。もし私が村を愛していて、進んで生け贄になっていたなら、彼はきっとここまでのことはしなかった。
 ここまでは望んでいなくとも、報いを受ければいいという気持ちが確かに私の中にあって。それを彼が汲み取った。そして実行した。
 報いを受けた村に、実際に多少胸がすいてしまったのが、何よりの証拠だ。

(レフィーは私をよく見ているのに、私は自分のことしか考えていない)

 差し出されたレフィーの手を、見つめることしかできないでいる。手が動かない。
 レフィーの手に応えないこともまた悪いと思うのに、手が動かない。

「……貴女は自分を身勝手と考えていますが、違います。そう思っている時点で、身勝手な者の条件から外れますから。それに身勝手というなら、私もでしょう。ここに雨を降らせたところで何の生産性もなく、心が満たされるわけでもなく。完全な、八つ当たり行為です」
「だってそれは――」
「他力本願とも思っていますか? 結構です。私としては、寧ろもっと積極的にそうしてもらいたいくらいです」
「あっ……」

 いつまでも迷っていた私の手を、迷いなく取ったレフィーが歩き出す。

「積極的に、自分の手に負えなかったらではなく、初めから私をアテにして下さい。ミア」

 そして彼は、躊躇いから握り返せないでいた私の手を、二人分とばかりに強く握ってくれた。
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