転生したら竜の花嫁⁉ ~雨乞いの生贄にされた私を捨てられた女なら丁度良いと竜が拾いに来ました~
「叔父さんは、生きている……のよね?」
恐る恐る、レフィーに尋ねる。
先程の「そうするべきではなかった」という台詞から、私は彼が思い留まってくれたと解釈した。が、希望的観測であって、それ自体はどちらとも取れる言い回しでもある。
真相はどうなの? まだ私を抱き締めたままでいる、顔の見えないレフィーの答えを待つ。
「……生きていますよ」
数秒の間があった後、めちゃくちゃ不服そうな彼の声が、頭上から降ってきた。
「ただ、やはり何もしないでいては腹の虫が治まらないので、玄関ホールに積んであった盗品と思われるものを、人間の城の倉庫に勝手に放り込んでおきました。ここは国管理の平野ですからね。引き取り先は合っています」
あの亜空間収納って、余所にも勝手に入れられたのか。でも人間の城の倉庫にって……警備の意味……!
「王都で聞いた情報だと、そろそろこちらへ派遣された兵士が到着してもいい頃です。食料もすべて倉庫に送りましたが、兵士が来たなら間もなく彼を捕まえるでしょう。牢で一応食事は出るでしょうから、死にはしません」
「今はどうしているか、わかる?」
「私がミアを抱えてこの家に入ったのを見たはずなので、さすがにここにはいないでしょうね。盗みに入った家のどれかに隠れたのでは?」
「そう……」
叔父さんは体力はなくとも、そっち方面では確かにしぶとそうな感じではある。レフィーが話す兵士が来るまで、何とか生き延びてくれるだろう。実際、私たちが来るまでここで一人、逞しく生きていたわけだし。
「さあ、帰りますよ。ミア」
そっとレフィーが私から離れる。
名残惜しい……と、ちょっと思ってしまった。
「初の朝帰りですね」
「言い方! って、私が気を失ってから日付が変わっていたのね……」
窓に目を遣れば、確かに外が見えるので夜ではない。けれど、朝だと気付かない程度には暗かった。そしてやはりそこには、止んでいない雨が見えた。
「……レフィー。雨を止めて欲しいの」
この雨がレフィーの譲歩だとわかっている。それでも、湖が溢れ、すべてが呑み込まれる村を想像するのが辛い。
「もう誰もいないのにまだ願うのですか?」
「……ここには、たくさんの思い出があるの。嬉しいことや楽しいことも、少ないけれどあったのよ。例えもうこの地に戻ることがなくても、無くなって欲しくない」
この村が本当に『平野』になってしまうのではないか。有り得ない未来でないことが怖くて、安心したくて、諦めきれない。シクル村に対する郷愁の念が私にもあったなんて、私自身、初めて知った。
「良い思い出があったとして、けれど最後に貴女は突き放された。要らないでしょう、そんなもの」
「――じゃあ、レフィーは私が死んだなら、すぐに忘れてしまうの?」
「は?」
レフィーがこれまで聞いたことのないような、素っ頓狂な声を上げる。ここまで素で返してきた彼は珍しい。
私はベッド脇のレフィーの方へと身を乗り出して、彼の両手を取った。
恐る恐る、レフィーに尋ねる。
先程の「そうするべきではなかった」という台詞から、私は彼が思い留まってくれたと解釈した。が、希望的観測であって、それ自体はどちらとも取れる言い回しでもある。
真相はどうなの? まだ私を抱き締めたままでいる、顔の見えないレフィーの答えを待つ。
「……生きていますよ」
数秒の間があった後、めちゃくちゃ不服そうな彼の声が、頭上から降ってきた。
「ただ、やはり何もしないでいては腹の虫が治まらないので、玄関ホールに積んであった盗品と思われるものを、人間の城の倉庫に勝手に放り込んでおきました。ここは国管理の平野ですからね。引き取り先は合っています」
あの亜空間収納って、余所にも勝手に入れられたのか。でも人間の城の倉庫にって……警備の意味……!
「王都で聞いた情報だと、そろそろこちらへ派遣された兵士が到着してもいい頃です。食料もすべて倉庫に送りましたが、兵士が来たなら間もなく彼を捕まえるでしょう。牢で一応食事は出るでしょうから、死にはしません」
「今はどうしているか、わかる?」
「私がミアを抱えてこの家に入ったのを見たはずなので、さすがにここにはいないでしょうね。盗みに入った家のどれかに隠れたのでは?」
「そう……」
叔父さんは体力はなくとも、そっち方面では確かにしぶとそうな感じではある。レフィーが話す兵士が来るまで、何とか生き延びてくれるだろう。実際、私たちが来るまでここで一人、逞しく生きていたわけだし。
「さあ、帰りますよ。ミア」
そっとレフィーが私から離れる。
名残惜しい……と、ちょっと思ってしまった。
「初の朝帰りですね」
「言い方! って、私が気を失ってから日付が変わっていたのね……」
窓に目を遣れば、確かに外が見えるので夜ではない。けれど、朝だと気付かない程度には暗かった。そしてやはりそこには、止んでいない雨が見えた。
「……レフィー。雨を止めて欲しいの」
この雨がレフィーの譲歩だとわかっている。それでも、湖が溢れ、すべてが呑み込まれる村を想像するのが辛い。
「もう誰もいないのにまだ願うのですか?」
「……ここには、たくさんの思い出があるの。嬉しいことや楽しいことも、少ないけれどあったのよ。例えもうこの地に戻ることがなくても、無くなって欲しくない」
この村が本当に『平野』になってしまうのではないか。有り得ない未来でないことが怖くて、安心したくて、諦めきれない。シクル村に対する郷愁の念が私にもあったなんて、私自身、初めて知った。
「良い思い出があったとして、けれど最後に貴女は突き放された。要らないでしょう、そんなもの」
「――じゃあ、レフィーは私が死んだなら、すぐに忘れてしまうの?」
「は?」
レフィーがこれまで聞いたことのないような、素っ頓狂な声を上げる。ここまで素で返してきた彼は珍しい。
私はベッド脇のレフィーの方へと身を乗り出して、彼の両手を取った。