転生したら竜の花嫁⁉ ~雨乞いの生贄にされた私を捨てられた女なら丁度良いと竜が拾いに来ました~
幕間 計画協力の報酬 -シナレフィー視点-
私は魔王城の中庭までミアを送り、陛下がいると思われる城の屋上へと向かった。
とても休日とは言えない昨日だったというのに、ミアはもう花壇の世話がしたいという。やりたいと思うことをやった方が健康だと言い張る彼女に、同意できる部分もあり押し切られてしまった。
屋上へと続く、石の階段を上る。
上りきってすぐ、縁に腰掛ける陛下の背中が見えた。
「シナレフィーか? 珍しいな」
振り返らないままで、陛下が先に私に声を掛けてくる。
「カルガディウムの街の整備ですか」
「そう。また集団で引っ越してきた魔物がいたから、皆に断って色々建物を入れ替えてた」
建物を入れ替える――古代竜種の重力操作によって、彼は容易く家屋や建材を動かす。こうしてああしてと、まるで積み木遊びでもしているかのように。
現魔王陛下は、歴代の誰よりも魔力に優れる。魔界に帰りたいと願うすべての魔物を連れて行くには、陛下の在位中に実行する他ないだろう。
「陛下。以前、打診していた触媒の調達を引き受けても構いません」
「えっ、急にどうした。いつ聞いても、特に欲しい報酬も無いからやらないって、そればかりだったくせに」
整備の手を止めた陛下が、私を振り返る。
私は彼に歩み寄って、その隣の縁に腰掛けた。その間、彼が私の動きを目で追ってくる。
「その欲しい報酬ができたのです。細々とした必要経費などは別途要求しますが、純粋な報酬としては、指定の触媒が揃った暁には陛下の蔵書を一冊下さい」
「一冊でいいのか?」
カルガディウムの街を見下ろせば、先程ミアと通ったばかりの道沿いの建物が既に入れ替わっていた。私が迎えに行くまで、彼女が急に思い立って家に戻ろうとしなければいいが。
迷子になっている彼女を想像していた私を、まだ陛下が見てくる。
そんなに私の申し出が意外だっただろうか。まあざっと百五十年ほどは袖にしていたか。
「昔、陛下の蔵書は一通り読ませてもらったので、内容はすべて頭に入っています。ですので、原本の紙自体が素材として必要な一冊をいただきたいのです」
「原本が素材って……アレか⁉」
ようやく陛下が街に目を戻したかと思えば、彼は先程の二倍は勢いよく再び私を振り返った。
「――何でまた、そんなものが欲しい」
「そのうち必要になるからです」
厳然たる声音で尋ねてきた陛下の方へ、上体ごと向き直って答える。
真っ直ぐに私を見ていた彼を、真っ直ぐに見返す。
「必要になるって……お前、それを親友の俺に言うのか? 自殺するための本が欲しいなんて」
言われるまでもなく、彼への罪悪感はある。しかし、言葉にもしたように、それは私にとって『必要』なものになってしまった。
考え直せと言外に匂わせる陛下の手に、私は前払いよろしく触媒の一つを握らせた。
押し付けられるようにして渡されたそれに、陛下が目を落とす。
「本の持ち主は陛下なので、陛下に言うしかないですね」
「あー、もう。そういう奴だよ、お前はっ」
私の本気を見て取ったのか、陛下は自身の髪をクシャッと乱しながら天を仰いだ。
とても休日とは言えない昨日だったというのに、ミアはもう花壇の世話がしたいという。やりたいと思うことをやった方が健康だと言い張る彼女に、同意できる部分もあり押し切られてしまった。
屋上へと続く、石の階段を上る。
上りきってすぐ、縁に腰掛ける陛下の背中が見えた。
「シナレフィーか? 珍しいな」
振り返らないままで、陛下が先に私に声を掛けてくる。
「カルガディウムの街の整備ですか」
「そう。また集団で引っ越してきた魔物がいたから、皆に断って色々建物を入れ替えてた」
建物を入れ替える――古代竜種の重力操作によって、彼は容易く家屋や建材を動かす。こうしてああしてと、まるで積み木遊びでもしているかのように。
現魔王陛下は、歴代の誰よりも魔力に優れる。魔界に帰りたいと願うすべての魔物を連れて行くには、陛下の在位中に実行する他ないだろう。
「陛下。以前、打診していた触媒の調達を引き受けても構いません」
「えっ、急にどうした。いつ聞いても、特に欲しい報酬も無いからやらないって、そればかりだったくせに」
整備の手を止めた陛下が、私を振り返る。
私は彼に歩み寄って、その隣の縁に腰掛けた。その間、彼が私の動きを目で追ってくる。
「その欲しい報酬ができたのです。細々とした必要経費などは別途要求しますが、純粋な報酬としては、指定の触媒が揃った暁には陛下の蔵書を一冊下さい」
「一冊でいいのか?」
カルガディウムの街を見下ろせば、先程ミアと通ったばかりの道沿いの建物が既に入れ替わっていた。私が迎えに行くまで、彼女が急に思い立って家に戻ろうとしなければいいが。
迷子になっている彼女を想像していた私を、まだ陛下が見てくる。
そんなに私の申し出が意外だっただろうか。まあざっと百五十年ほどは袖にしていたか。
「昔、陛下の蔵書は一通り読ませてもらったので、内容はすべて頭に入っています。ですので、原本の紙自体が素材として必要な一冊をいただきたいのです」
「原本が素材って……アレか⁉」
ようやく陛下が街に目を戻したかと思えば、彼は先程の二倍は勢いよく再び私を振り返った。
「――何でまた、そんなものが欲しい」
「そのうち必要になるからです」
厳然たる声音で尋ねてきた陛下の方へ、上体ごと向き直って答える。
真っ直ぐに私を見ていた彼を、真っ直ぐに見返す。
「必要になるって……お前、それを親友の俺に言うのか? 自殺するための本が欲しいなんて」
言われるまでもなく、彼への罪悪感はある。しかし、言葉にもしたように、それは私にとって『必要』なものになってしまった。
考え直せと言外に匂わせる陛下の手に、私は前払いよろしく触媒の一つを握らせた。
押し付けられるようにして渡されたそれに、陛下が目を落とす。
「本の持ち主は陛下なので、陛下に言うしかないですね」
「あー、もう。そういう奴だよ、お前はっ」
私の本気を見て取ったのか、陛下は自身の髪をクシャッと乱しながら天を仰いだ。