転生したら竜の花嫁⁉ ~雨乞いの生贄にされた私を捨てられた女なら丁度良いと竜が拾いに来ました~
(はっ、これってもしかしてとんでもないチャンス到来なのでは?)

 素直な喜びの後に(ほの)(ぐら)い欲望が目覚め、私は思わずゴクリと喉を鳴らした。

(これが人間のスタンダードだと吹き込んでしまえば、何も知らないこの人なら本当にやってくれるんじゃ……⁉)

 期待に胸を膨らませながら、私が話し出すのを待つ彼を見る。
 そういえば彼の容姿は改めて見れば、少女漫画的に百点満点だ。妄想が(はかど)る。前のめりにならないよう気を付けて、私。

「そ、そうね。じゃあまずは――」

 まずは……何だろう。あれ、いざ考えると一番最初って何やってたっけ。
 えーと、恋愛をする二人が出会うでしょう? そうしたら……あっ。

「お互い名前も知らなかったわね。私はアルテミシア。あなたの名前を教えてもらっても?」
「シナレフィーです」
「シナレフィーね」

 そうそう、まずは名前よ名前。で、次は……うーん、見事に今まで接点が無かったから、ここから話を発展させるとなると……あっ。

「うん、愛称を決めましょうか」
「愛称?」
「親しくなりたい者同士が、お互いを特別な呼び名で呼ぶのよ」
「ああ、なるほど。差別化を図ることで、競合相手より優位に立つわけですか」

 経営戦略の話なんてしてない。

「そうね、それじゃあ私は、あなたをこれから『レフィー』と呼ぶことにするわ」
「そうですか。では私は貴女を『ミア』と呼ぶことにしましょう」
「えっ⁉」

 まったく身構えていなかったところに、ミア――前世の名前で呼ばれ、つい大袈裟に反応してしまった。
 そう、『()()』。私は前世で、地球という世界の日本という国に住んでいた。そこで平凡なOL――もとい、オタクなOLをやっていた。
 『美愛』……懐かしい、とても懐かしい名前だ。

「何ですか。不満でも?」
「う、ううん、そうじゃなくて。これまで愛称を付けられたときは『シア』だったから、驚いただけ」

 うん、驚いた。誰も知らないはずのその名前を、迷いなくこの人が呼んだことに。

「ああ、貴女も私の名の後ろを拾っていましたね」

 レフィーが、今気付いたというように言う。

「けれど私は貴女には、『ミア』の方が合うような気がしたんです。だから、そう呼びます」

 さらに彼はそう続けた。大した理由ではないといった口調で。そのことが、余計に私の心を震えさせた。

(美愛も一緒に、恋をしてもいいの?)

 瞬きも忘れて、レフィーを見る。

「ありがとう……レフィー。すごく、嬉しい……」

 声まで震えないよう、一言一言意識して言葉にした。そのせいで、泣き笑いになってしまった気がする。
 でもそれは、すぐに自然な笑みへと変えられた。不思議そうに私を見るレフィーが、何だか可愛くて。

「こんなことで、そこまで喜ぶんですか。貴女はよくわからない人ですね。また少し、興味が湧きました」

 彼の興味を引けたことが嬉しいと感じるのは、私も彼に興味を持ち始めたからなんだろう。案外、どこかの人間の男に嫁ぐより、レフィーに嫁いだ方が本当に幸せになれるかもしれない。

「私もレフィーが番で、とても運が良かったわ」

 私がそう言えば、これもレフィーの興味を引けたのか、彼の口がほんの少し開く。
 そしてその口の端が僅かに上がった変化に、私はまた嬉しくなったのだった。
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