転生したら竜の花嫁⁉ ~雨乞いの生贄にされた私を捨てられた女なら丁度良いと竜が拾いに来ました~
「……」

 何も言えないまま、私は自分の左手を見下ろした。
 幾ら見つめても消えずそこに存在するそれに、どこか他人事のように思っていたのが、じわじわと実感が湧いてくる。
 顔を上げ、自分がいる場所を確かめるように周囲を見る。
 純白の壁に、金細工が施された壁掛けランプ。絨毯は明るいグレーで、少し毛が長いタイプ。白いソファには金の刺繍がしてあるクッションが載っており、その脇には観葉植物が置かれている……。
 眺めていたはずのその舞台に立っていたのは、紛れもなく自分だった。

「『アルテミシア』は百年に一度、地表に現れる幻の宝石と言われています」
「そ、そうなの。その年に当たるなんて、すごい偶然ね!」

 意識した途端ドギマギしてしまい、裏返った声が出た。
 レフィーの方を見られなくて、何とはなしにまた指輪に目を戻してしまう。

「いえ、次の出現は二十年後でしたので、掘ってきました」
「掘っ……て?」
「出現する場所はわかっていますので、真下に掘れば見つかります。二十年後なら大体、十六メートル掘ればよかったので」
「十六メートル掘って……来たんだ」

 それは人型で? それとも羽の生えたアルマジロトカゲが? 前者はシュールだし、後者は可愛い。

「掘るよりも、元通り埋める方が大変でしたね。地層ごとに土質が異なるので、土ごとに置き場を分けて、正しい順序で戻さないといけなかったので」

 環境への配慮も忘れない。ただし、二十年後に宝石を探しに来るだろう人間への配慮は無い。

「正解の言葉がわからないので、素直な望みを言います」
「レフィー?」

 レフィーが私の前に(ひざまず)く。
 彼がそうしたことで、指輪を見下ろしていた私の目は、彼のそれとかち合った。
 私たちの視線の一直線上に、彼が掲げた私の左手があった。

「愛しています、アルテミシア。どうか私に、愛する貴女を可能な限り生き永らえさせる許可を下さい」
「⁉」

 再び舞台の幕が上がる。しかも、いきなり見せ場から。
 大根役者な私は気の利いた台詞を返すどころか、口を半開きのまま動かすこともできない。
 かろうじて、
 かろうじて、人形のようにぎこちない動きで、私は首をコクンと縦に振った。

「――頷きましたね」
「えっ?」

 瞬間、にこっとではなく、にやっとレフィーが笑った気がした。
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