転生したら竜の花嫁⁉ ~雨乞いの生贄にされた私を捨てられた女なら丁度良いと竜が拾いに来ました~
「ミア。育児中の怪我には、充分気を付けて下さい。ミアはか弱いので」
「怪我に気を付けるのは、子供じゃなくて私なの⁉」

 確かに手を挟まれたのが、ふかふかベッドでなかったなら、手を痛めていたかもしれない。それでもイベリスは体重が重いだけで、赤ん坊なのだ。普段は勿論気を付けるが、例えばもし彼女がベッドから落ちそうになったなら、身を挺してでも守る所存だ。

「ミアには黙っていましたが、先日ルルの抱っこからイベリスが抜け出して床に落ちてしまったことがありました」
「えええっ、怪我はなかったの⁉」

 思った側からそれ⁉

「イベリスは無傷でしたが、魔王城の床は破損しました」
「ん?」
「ルルがイベリスに睡眠効果付き子守唄を歌ったところ返り討ちに遭い、逆に眠らされてしまったようで」
「娘が強過ぎる件について」
「床については陛下がすぐに修復したので、もう穴は空いていません大丈夫です」
「その『大丈夫』は、やっぱり私に向けて言っているのよね?」
「そうですね。穴に()(つまず)くことも含め、日常生活を送っていて怪我をするのは、魔王城ではミアくらいですので。くれぐれも気を付けて下さい」
「……はい」
「ところでこれ、新作ですよね?」
「あっ、いつの間に」

 片肘を付いた私と似たような体勢で、イベリスを挟んだ向こう側にレフィーが寝転がる。その彼の手には、つい先程までイベリスに読み聞かせていた絵本があった。

「新作は新作だけど、漫画じゃなくて絵本よ。それ」
「ふむ……全面に絵があって、文字が少なめの体裁ですか。これもまた新鮮です」
「言われてみれば、絵本て見たことがなかったかも」

 オプストフルクトでは物語といえば、教会で壁画を見ながらシスターが語ってくれるくらいだった。絵本のような子供向けの本というものを、見た覚えがない。
 レフィーが新鮮というくらいだから、私だけがそうなのではなく、オプストフルクト自体がそういう文化の国なのだろう。

「しかし、ミア。私の今朝の育児記録の時点では、イベリスはまだ文字を読めなかったはずですが?」
「ああ、うん。読み聞かせをしていたの」
「読み聞かせですか? 言葉もまだ理解していなかったと思いますが?」
「内容というよりは、話すリズムというかそういうのが良いって聞いたことがあったものだから」
「なるほど……では、私もミアから聞くことにします」
「え?」

 開いていた頁を閉じたレフィーが、私に絵本を差し出してくる。
 私から聞くことにというのは、それって私が彼に読み聞かせるということ? 大の大人――それも自分の夫に?

(何、この状況……)

 冗談抜きで待ちの体勢になっている、レフィー。その瞳はキラキラとしている。
 ああ、そうか。絵本が新鮮なのなら、読み聞かせも未知の世界なのか。わからないこと知らないことが大好きな彼が、見過ごすはずもなかった。
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