僕の愛した人は…

「優子が婚約破棄された。無様な姿を見て満足したか? 」
 話しながら歩み寄ってくる隼人を鼻で笑ったメイ。
「レイラ。お前随分と変わったんだな、以前のお前は優子のあんな姿を見れば自分を犠牲にしてでもどうにかしようとしたはずだが? 」
「私の知った事ではないわ。自業自得でしょう? 」
「自業自得か…」

 メイの傍に来た隼人はじっと見つめてきた。
「レイラ。もし5年前に、今のお前がいたなら俺はきっと本気で好きになっていたかもしれない」
「ご冗談を。お金にしか興味がないって、そう言っていたでしょう? 」
「そうだな。お前に近づいたのも、天城財閥の財力を手にする為だった。両親が亡くなり、親戚が天城家を乗っ取ったと言って絶縁してきたと。お前が唯一持っていた貯金1000万だけを渡してくれたな」
「それでも…騙していたのよね? 結婚したふりをして、挙句には誘拐犯に仕立て上げた。そして釈放されたのを知って、最後には心臓を奪うために…」
 怒りが込みあがって来たメイはグッと言葉を飲み込んだ。
 そんなメイを見ていた隼人は少しだけ視線を落とした。

「明日我が社に来てもらえないか? 」
「明日? 約束は明後日よ」
「一日早いだけ変わらないだろう? 」
「そうだけど。何か企んでいるの? 」
「いや別に…ただ、今のお前なら毎日見ていても飽きないって思えるから」
「そう…。考えておく、気が向いたら行くわ期待しないで待っていてちょうだい」

 それだけ言い残すとメイはそのまま去って行った。

 去り行くメイをじっと見ていた隼人。
 メイの去ってゆく後姿を見ていると、遠い昔を思い出した。
 
 隼人がまだ小学生の時。
 父親が蒸発して行くへ不明になり、理子は寂しさから毎晩のように男を求めるようになった。
 隼人が寝た後に家を出てホストクラブへ行っては好みの男に貢いでいた。そして昼間にホストの男を家に連れ込むようになった。
 父親が蒸発した事で隼人と優子は狭い2DKのアパートに引っ越すことになり、隼人が学校から帰ってくると昼間から理子と男が絡み合う声が聞こえてきたり、玄関を開けると裸で絡み合っている理子とホストの姿を目撃する事も多かった。隼人が寝てから出かけていた理子だが、次第に夕飯もろくに作らずホストに狂うようになってきた。ほとんど夕食はレトルト食品やカップラーメンばかりで、隼人はいつもお腹を空かせていた。優子もお腹が空いたと言って泣きわめいたり、隣の家に行ってお菓子をもらってきたりと家の中は荒れ放題だった。理子はいつも「母親なんていや、私はいつまでも女でいたい」とホストに言っていた。そんな理子を軽蔑していた隼人は、早く大人になってこんな母親捨ててやると思い続けていた。
 だが隼人が大学を卒業して佳代と出会って結婚する事になった時、理子が心臓発作で倒れた。もともと弱かった心臓が悪化しているようで心臓移植をしなければ余命は短いと言われた。
 隼人は母親への復讐がまだ終わっていない。このまま死なれては困ると思いドナーを探した。
 なかなか適合するドナーなんか現れないと言われていたが、たまたま新入社員で入ってきたレイラが健康診断で適合することが分かった事からレイラに近づいて行った隼人。レイラは天城財閥の令嬢でお金持ちだったが、両親が亡くなって親戚が天城家を乗っ取り貯金1000万だけをもって隼人と結婚を決めた。
 しかし佳代が予定外に現れてしまい結婚したふりをしていた事がバレてしまい、レイラは隼人の元から姿を消した。
 レイラが姿を消して1年と少し過ぎた頃。理子の心臓が悪化して早急に心臓移植が必要になった。そんな時レイラを目撃した佳代がいた。強引ではあるが佳代はレイラを乳児誘拐犯に仕立て上げドン底に突き落とした。心身ともにダメージを食らったレイラが釈放された事を聞きつけ後を着けていた佳代。
 信号を渡っていたレイラめがけて優子が運転する車が突っ込んでゆき引かれたレイラは脳死した。
 人通りが少なかったことから目撃者も少なくひき逃げ犯は捕まらないままで、レイラはドナー登録をしていた事から臓器は必要な人へ移植されることが決まった。隼人は金の力を使ってレイラの心臓を理子に移植させた。他にもドナー待ちの患者はいたが大金を使い理子にレイラの心臓を移植させた事で理子は命を長らえる事になり、レイラはそのまま亡くなった…。

 そう思われていたレイラが生きていた。
 隼人は驚く気持ちもあるがどこかホッとしている自分がいる事に驚いていた。


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