僕の愛した人は…

 これをきっかけに宗田家に戻った優。
 聖と柚香には優が暮らしていたマンションに移ってもらい優は宗田家に有羽とともに戻って来た。


 赤ちゃんの時に見ただけだった有羽はすっかり大きくなって、5歳の割には大人びた顔立ちでしっかりしている姿に聖も柚香も驚いていた。
「有羽君、初めまして。あなたのお婆ちゃんよ」
 柚香が笑いかけると有羽は満面の笑みを浮かべた。
「初めまして、よろしくお願いします」
 しっかりとした挨拶をしてきた有羽に柚香は驚いて感心した。
「有羽君、初めまして。…お爺ちゃんだよ…」
 ぎこちない笑顔を向ける聖に、有羽はギュッと抱き着いた。
「お爺ちゃん、会いたかったです」
 会いたかった…そう言われると、聖の目が潤んだ。そのまま有羽を抱き上げた聖。
 間近で見る有羽は綺麗な顔立ちで外国人のようだが、目元は優とそっくりで、どこか自分にも似ているように思えた。
「有羽君。これからは、お爺ちゃんの所にもきてくれるかい? 」
「うん、行くよ」
 素直に返事をする有羽がかわいくて、聖はギュッと抱きしめた。

 その日は家族で一緒に夕食を食べて、聖が有羽をお風呂に入れてくれた。
 お爺ちゃんと一緒だと有羽は大喜びで、寝る時間になるまでずっと傍から離れてくれなかった。そんな光景を見ていた柚香は、やっと親子の壁が取れたと喜んでいた。


 その後2週間ほど、宗田家で優と有羽と一緒に暮らした聖と柚香は、優が暮らしていたマンションヘと移り住んだ。
 
 そしてあの日。優はメイと初めて会った。
 メイと初めて出会うその日の朝、優は優に話した。
「有羽、今日は大切な人を連れてくると思うから楽しみにしていてね」
「大切な人? もしかしてママ? 」
「来てからのお楽しみね」

 メイが日本に帰国してきた。そして必ず隼人に接触してくると優は見込んでいたのだ。
 

 あの日。
 優は時計台でメイが隼人が来るのを待っている姿を遠くで見ていた。
 
 レイラが生きていると驚く隼人をあざ笑っているメイ。
 二人が話しているところへ偶然を装って優は近づいて行った。
 
 そして…メイをそのまま宗田家に連れて来た。
 あくまでもレイラだと思い込んでいるふりをして…。


 夜も更けって。
 
 有羽と一緒に眠っているメイの寝顔を見ている優がいる…。
「…大丈夫。…今度は僕が守るから…」
 メイの寝顔にそっと触れた優。
 そっと前髪をかき上げると、メイの額に古くなった傷跡が残っていた。
 その傷にそっと触れた優。
「僕はずっと忘れていないから。…あの時の優しさ…」
 有羽とメイを包み込むように抱きしめて、優はそのまま眠りについた。



 
 
 翌日。
 メイは隼人に言われて予定を繰り上げようかどうしようか迷っていた。

 とりあえず駅前まで来てみたが…。

 レストラン街のカフェに入って一息ついたメイ。

 窓際に座って外を見ていると、レイラがひき逃げされた現場が思い出される。メイは聞いただけだったが、車は明らかに赤信号の所をレイラめがけて突っ込んできた。
 打ち所が悪くレイラは脳死した。まるで眠っているかのように穏やかな顔をしていているレイラを見て、メイは信じられない気持ちでレイラの死を受け入れる事が暫くできなかった。ドナー登録をしていたレイラの臓器は必要な人へ提供され心臓も移植されたと聞かされた。しかしその後、レイラの心臓が内金理子へ移植された事を知り話が出来すぎている事に疑問を感じたメイは自己の事を詳しく調べてみた。するとひき逃げした車と同じ車を隼人の妹優子が乗っていた事を知った。レイラの事故の後、優子の車は新車に変わっていた事から何かおかしいと探りを入れる為、メイは清掃員のふりをして内金コンサルティングへもぐりこんだ。
 するとあの会話を聞いたのだった。

 カフェオレを一口飲んで窓の外を見たメイ。

 すると若い男と腕を組んで歩いてくる理子の姿が目に入った。
 もう60代後半になる理子だが若作りの為20代が着るような服を着てミニスカートを履いてハイヒールを履いている姿はちょっと痛い。体系は中年太り気味でかなり無理のある格好をしている。
 腕を組んでいる男は金髪でジャラジャラした格好をしているところから、どこかのホストのようだ。
 昼間から堂々と腕を組んで歩いているとは…。

 メイは内心呆れていたが証拠写真として二人の写真をこっそり撮っていた。
 
 理子は若い男とホテル街へと歩いて行った。この昼間からよくやるものだ…。
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