僕の愛した人は…

 メイは事情を聞かれてそのまま病院へと向かった。
 呼吸は通常に戻っているが、首に強く爪の跡が残り血が滲んでいる事から処置してもらう事になったのだ。

 
 金奈総合病院。
 ここは金奈市でも一番大きな病院で名医がそろっている。
 その中に…。

「これでもう大丈夫よ。傷跡も残らないようだから、暫くは安静にして下さいね。」
 優しい笑顔で処置をしてくれたのは外科医の宗田花恋。優の双子の妹でつい最近アメリカから帰ってきて金奈総合病院に勤務が決まったのだ。優と顔立ちは似ているが、クールな目元は聖とそっくりである。長い髪を白いシュシュで後ろでまとめて、白衣がとてもよく似合い優しくてとても可愛らしい女性である。

「でも驚いたわね。お兄ちゃん、いつの間にレイラさんと再会したの? 」
 ちょっと意地悪そうな笑みを浮かべて恋花が尋ねると、優は少し頬を赤くしていた。
「つい最近だよ」
 そう、照れながら答えた優。
「え? 私には全然報告してくれないじゃないの」
「ごめん、ごめん。色々バタバタしてたから」
「もう。こんな形で知っちゃうなんて。…まぁいいか。レイラさん、改めてよろしくお願いしますね」

 メイは曖昧な笑みを浮かべていた。
 優の妹花恋は…弟のレイヤと深い関係があったと聞いている。でも今はどうなのかよく判らない。レイヤが上之山家に養子に行ってからは、疎遠になったようだが…。

 
 メイと優が病院のロビーまでやってくると、誰かが走ってくる足音が聞こえてきた。
 ロビーの自動ドアが開いて入って来たのは隼人だった。
「あっ…」
 隼人はメイ達の姿を見て焦った表情を浮かべ、足を止めた。
「あ…あの…」
 呼吸を整えながら隼人はメイに歩み寄って来た。
「妹が…迷惑をかけてしまって…」
 それだけ言うとスッと視線を落としてしまった隼人。そんな隼人にメイは冷ややかな眼差しを向けた。
「それだけ? 」
 ん? と視線を上げてメイを見た隼人。
「妹が迷惑をかけた。それだけ? 言いたいことは」
「それだけとは? 」
「相変わらずね。人に迷惑をかけたなら、何を言うべきなのか。小学生でも知っている事だと思うけど? 」
 隼人はフイッと視線を反らした。
「お約束の件はなかったことでお願いします」
「はぁ? どうゆう事だ? 」
「このまま、あなたに会っては危険だと思うわ」
「それじゃあ話が違う! 」
「話が違う。そうなったのは誰のせい? あなたの妹のせいでしょう? 」
「じゃあ、アレはどうするつもりだ? 」
「さぁ…考えておくわ」
 それだけ言うとメイはそのまま去って行った。

「ちょっと待てレイラ! 」
 ガシッとメイ肩を掴んで引き留めてきた隼人。
「痛いわ、離してくれない? 」
「アレを渡せ! 金なら用意する」
 言いながら鞄から小切手を取り出した隼人はサッと金額を書いた。
「これでいいだろう? 望んだ額を書いた」
 メイが言った10億の金額を書いた小切手を突きつけてきた隼人。そんな隼人をメイは見下した目で見ていた。 
「…お金で人の心が動かせると思っているの? 」
「はぁ? 条件を出してきたのはお前だろう! 」
 ロビーに響き渡るような大声にメイは呆れた表情を浮かべた。
「そうね。私もお金で何でも動かせるって、あなたに教えてもらったものだから。そう思っていたのだけど、どうやら違うって気が付いたの」
「どうゆうことだ? 」
「お金では動かせないものがあるという事。それが何なのか…その答えが分かれば、約束のアレは渡すわ」
「なに? 」

 イラっとした目を向けた隼人。そんな隼人をメイは冷静に見ていた。

 ん? と、隼人が何か引っかかるような目を向けた。

 あれ? レイラの瞳は青色だった。…だが目の前のレイラは…瞳が赤い…錯覚か?


「あの、お話し中に失礼します」
 見かねた優が二人の傍に歩み寄って来た。

「これは宗田副社長。もしかして、レイラを助けてくれたのでしょうか? 」
「はい。偶然通りかかったものですから」
「そうだったのですか」
「あの。レイラさん、怪我をされているのです。首を絞められたこともあるので、そろそろ話しを終わらせてもらえますか? 今日は安静にするようにと医師からも言われていますので」
「はぁ…そうでしたか…」

 優はメイの手をそっと握った。
「帰ろうか」
 メイは小さく頷いた。
「では内金社長失礼します」

 メイの手を引いて優はそのまま歩いて行った。

「あ、内金社長」
 立ち止まった優が隼人に振り向いた。
「内金社長。これは僕の意見ですが。人に迷惑をかけた時はまず先に「ごめんなさい」と言うのが礼儀だと思いますよ」
 ギクっと図星を指された隼人は黙ったまま何も言えなかった。

 優はそんな隼人を見て何も言わずそのままメイを連れて去って行った。 

 なんなんだ? この煮え切れないというか気持ち悪い感情は…。それにどうして、レイラが宗田さんと一緒に? 面識がなかったレイラが何故? 
 複雑な気持ちのまま隼人はその場に佇んでいた。
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