僕の愛した人は…

 先ずは風太が頭取を務める銀行を狙った隼人。
 高額預金を全て引き出し他行へ移す事にした。隼人が預金していたのは10億以上。そんな高額預金を他行へ移行されれば銀行にとっては大きなダメージを食らう。重ねて給料振り込みも他行へ移すことにした隼人。
 それだけでは足らず社員もたきつけて次々と他行へ預金を移させた。

 急に来お客が減り大きなダメージを食らった事で業務を縮小して視点を減らすことになった事で、風太はストレスから体調を崩すようになった。そんな風太を見ていたヴァレンティアも心を痛めて体調が悪くなる日が多くなった。
 
 病院に来ていた風太とヴァレンティアを見かけた隼人は二人に話があると言って呼び出した。

 隼人は風太とヴァレンティアにレイラと結婚させてくれたら預金を全て戻してもいいと言い出した。だがそれでも、風太のヴァレンティアもレイラとの結婚を許さなかった。
「娘を犠牲にしてまで生き残るつもりはない」
「好きでもない人と結婚なんかさせられません」
 意志が変わらない風太とヴァレンティアに、隼人は最終手段を使った。

 それは…
 二人の飲み物に毒薬を投入して飲ませたのだ。

 二人とも体調を崩して病院に通っていた。
 通院してきた風太とヴァレンティアを待ち構えていた隼人は、レイラと結婚させてほしいと話をしてきたが、二人の答えは変わらないままだった。
「そうですか」 
 と、素直に引き下がった隼人。だが引き下がる隼人の裏には怪しい笑顔を隠れていた。

 しばらくして。
 隼人と話を終えた風太とヴァレンティアが倒れているのが発見された。口から血を吐いて倒れていた二人を見て、何か薬物を飲まされて死んだことが判明。
 目撃者が隼人と会っているのを証言したが何かをした証拠が出てこない事から隼人の容疑は晴れて逮捕されることはなかった。
 証言が曖昧のまま隼人は逮捕される事なく無罪とされていたが。真相は迷宮入りした… …。

「俺は…間違っていない…」
 昔を思い出しながら隼人は独り言のように自分いそう言い聞かせた。
 だが…恋花が言った「レイラを愛していた」と言う言葉が妙に引っかかっていた…。



 

 夜になり診察を終えた花恋が帰る時。
 病院の外へ出てきた花恋を待っていた人がいた。

「恋花さん…」
 声をかけてきたのはシンプルな黒いスーツに身を包んだレイヤだった。
「レイヤ君…」
 暫くぶりに見るレイヤに恋花は嬉しさが溢れてきた。だが、彼の顔色はとても悪く見るからに痩せこけている頬と、見える鎖骨はこねばっていた。 

「すみません。もう、お会いするつもりはなかったのですが。どうしてもお伝えしたいことがあったので」
 レイヤは少し深刻そうな顔をして花恋を見ていた。
 花恋は、レイヤが何か重要なことを伝えようとしていることを察っして黙って続きを促した。

「花恋さん。……俺は、もう長くありません」
「……え?」
「このところ体調が優れなくて、検査をしてもらったら……その、肝臓をやられていました。生きる為には移植が必要だと言われたのですが、ドナーを探すのも嫌なのでそのまま流れに身を任せる事にしました」
「な……!」

 花恋は思わず絶句した。
 レイヤが通院している事は知っていた。臓器のどこかをやられている事は聞いていたが、まさかここまで深刻だったとは…。
「それで花恋さんにお願いがあります」
「なに? お願いって」
「姉の事…守って頂けませんか? 」
「お姉さん? レイラさんの事? 」
「は、はい…」
 
 返事をしたレイヤがどこかしっくりこないような表情浮かべたのを花恋は見逃さなかった。その表情から何かもっと深い事情がある事を察したが、あえてここは問い詰める事はしない事にした。
「いいわ。ちょうど今日、レイラさん診察に来たところで再会できて嬉しかったから」
「有難うございます」
「でも私にも条件があるの」
「え? 」
 驚きつつも真剣な眼差しで見ているレイヤに、花恋はそっと微笑みかけた。そしてゆっくりと歩みよって来た。

 レイヤの傍に来た花恋は愛しそうな眼差しで見つめてくると、そっと耳元に近づいて何かを囁いた。

「え? …」
 クールな目を見開いて驚いたレイヤ。
 そんなレイヤを見て花恋はクスっと笑った。
「嫌とは言わせないわ。だってレイヤ君は…私の初めてを奪った責任があるでしょう? 」
「う、奪ったって。だってあれは…」
 頬を赤くしたレイヤは、まるで子供の様に口をとがらせて照れていた。
「いいじゃない。私、何度も結婚してって言ったのにずっと振っていたのはレイヤ君でしょう? 」
「仕方ないじゃないか。俺は、年下だし…」
「年下だって年上だって関係ないわ。私はレイヤ君じゃないと嫌なの」
 そう言って花恋は軽くレイヤの頬にキスをした。
 
 頬にキスされただけなのにレイヤは耳まで真っ赤になっていた。


 
 その夜。
 有羽を寝かせつけたメイは一人部屋に戻って荷物をまとめていた。

 優子に首を絞められたことでメイは危険と背中合わせであることを身をもって感じた。
 内金家を破滅させるために手段を選ばないと決めたが、人を騙して心臓まで奪って平気な顔をしている連中が攻撃されればそれ以上の攻撃を仕掛けてきて当然だ。自分一人であれば回避できても、まだ小さな有羽まで巻き込んでしまっては危険すぎる。それに…優の事も巻き込んでしまう…。メイの事をレイラだと思い込んでいる優だが、内金家を破滅させる計画を立てている事なんて知りもしないのだから。

 これ以上宗田家にいてはいけない。やはりこの問題は自分だけの問題だから…。

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