僕の愛した人は…
偽造がバレた瞬間

 翌日。

 有羽と優はいつものように朝食を済ませて出かけて行った。
 メイは軽く朝食を済ませて暫くすると少しだけの荷物をまとめてこっそり宗田家を出て行こうとした。

 今なら優も仕事に行っているし有羽も保育園でいないから。
 そう思って誰も見ていないのを確認して玄関を出てきたメイ。
 お手伝いさんも洗濯や掃除で忙しくて他に目が向けられない時間。運転手も送迎中で不在。人の目が少ない時間帯でメイも動きやすかった。


 
 できるだけ人通りが少ない道を選んでメイは駅へ歩いてきた。
 しばらくはどこかホテルにでも泊まっておくかと思ったメイは、駅裏にある個人営業のカフェに入って一息つくことにした。

 席に座ってメイがカフェオレを注文すると電話がかかって来た。
「はい、もしもし」
(姉ちゃん、俺だけど)
「レイヤ。どうしたの? 」
(…俺…上之山さんと養子縁組解消する事にしたよ)
「どうしたの急に」
(結婚することにしたから)
「え? 本当? おめでとう。それで相手は誰? 」
(…花恋さん…)
「えっ…」
(昨日姉ちゃんを迎えに行ったら花恋さんと会ったんだ。それで、俺の病気の事とか話したら結婚してほしいって言われた)

 メイは少し黙っていた。
 レイヤは上之山家に養子に行って家業を継いで幸せになってほしいと願っていた。だが内金家破滅の為にレイヤには協力してもらっている事もある。だが…レイヤにはそろそろ幸せになってほしいと願っていたのは確かだ。

「おめでとう。いいじゃない、愛される事って幸せだと思うから。それに彼女は医師でしょう? 傍にいてくれたら、何かと心強いじゃない」
(うん…)
「私の事はいいから、レイヤは自分の幸せを考えなさい。巻き込んでしまって、ごめんね」
(いや、巻き込まれたなんて俺は思っていない。これからも姉ちゃんの力になるから)
「ありがとう。その気持ちだけで嬉しいわ」
 複雑な気持ちもあったがメイはレイヤの幸せを優先してほしいと願った。相手が恋花なのはちょっと引っかかるような気がするが、レイヤは恋花とはずっと両想いだったのは確かだから。


 電話を切ったメイは注文したカフェオレが届いて飲み始めた。
「結婚かぁ…。レイラはどんな気持ちで、隼人と結婚したのかしら? 宗田さんと愛し合っていたのに、どうして? 」
 一息ついてメイはそっと窓から見える空を見上げていた。


 

 昼下がりの公園。
 保育園児が保育士と一緒に遊びに来ている。その中に有羽もいた。
 有羽は明るい性格から友達も多く楽しそうに遊んでいる。
 そんな園児が遊んでいる近くを理子が若いホストと一緒に歩いてきた。

「ん? 」
 大勢の園児の中で遊んでいる有羽が目に留まって理子は足を止めた。
「あの子…まさか…」
 有羽が目に留まった理子はどこかレイラに似ていると思った。まだ幼い有羽はどちらかと言えば女性よりの顔立ちをしていて美形だ。ぱっちりした目元はレイラとよく似ているのは確かだ。

 理子はホストを待たせて有羽の傍に歩み寄って行った。


「こんにちは」
 派手な格好で香水のにおいをプンプンさせた理子が声をかけてきて、有羽は驚いた目を向けた。
 間近で見る有羽は瞳の色が青く目元がレイラにそっくりであることを確信した理子。
「ねぇ、お名前教えてくれる? 」
 有羽は黙ったままじっと理子を見た。
「ごめんね急に声をかけて。おばちゃんが知っている人にいているから、気になったの。僕のお母さんって何て名前なの? 」
 プイっとそっぽを向いた有羽。

「どうしたの? 」
 他の園児が保育士を呼んできた。
 有羽は保育士に駆け寄って後ろに隠れた。

「すみません。ちょっと、息子が結婚していた人に似ていたので。お母さんの名前を聞いていただけです」
「そうでしたか。すみません、知らない人には近づかないように指導しているので」
 そう言って有羽を抱きかかえて保育士は去って行った。

「…似ているわねレイラに。…でも、隼人とレイラは何も関係を持っていないって聞いているけど。まさか…」
 保育士と去って行った有羽をじっと見ていた理子。
 とりあえず今日は引き下がる事にした。
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