僕の愛した人は…
写真

 秘書の後にやって来たのは…花恋だった。

「あんた…。何か用か? 」
 花恋は辺りを見渡した。
 
 床に散らかっている書類を見た花恋は、隼人の気持ちがあれているのを察した。
「随分と荒れているようね。もしかして、罪悪感でも感じ始めたのかしら? 」
「何が言いたい? 」
 
 花恋は鞄から写真を数枚取り出して机の上に置いた。
 その写真は、隼人が薬物悪寒室の前に立っている姿と薬物らしきものを手に保管室から出てきた写真だった。
 写真を見た隼人は冷めた目をしている。
「これであなたが天城夫妻を殺害した疑いが強くなるわ。この写真は既に警察に提出している。そして間もなくマスコミにもバレると思うわ」
「そうか…」

 冷めた目のまま特に動揺していない隼人を、花恋は少し不思議そうに見ていた。
「こんなこと聞くのもアレなんだけど、何か言いたいことは? 」
 花恋は、淡々とした口調で隼人にそう問いかけた。
「……何もない」
 少し考え込んでから、隼人は答えた。
「そう。それなら…」
 花恋が何かを言いかけた時、隼人は机の引き出しから尖った鋏を取り出して花恋に向かって突き付けた。
 一瞬ビクッと驚いた花恋だったが憮然として隼人を見ていた。
 隼人がそのままハサミを花恋に突き刺そうとしたところで……

 ピロリン♪ピロリン♪ スマホの着信音が鳴った。その音を聞いて隼人の手が止まった。同時に花恋も拍子抜けしたようにため息を吐いた。そしてスマホを操作してメッセージを確認した隼人。
 
 隼人がスマホを確認している間に花恋はその場を去って行った。


 
  隼人の様子が気になりながらも花恋はそのまま駅前まで歩いてきた。

 時計台を通り過ぎて花恋が歩いてゆくと大きめの鞄を持って歩いているメイを見かけた。
「あら? レイラさん。あんな荷物もって…まさか! 」

 
 メイは今夜泊まるホテルを探していたが駅前はどこも満室で、駅裏にある少し高めのホテルへ行ってみようと歩いていた。
「レイラさん」
 ん? とメイは立ち止まって振り向いた。
「やっぱりレイラさんだ」
 花恋が駆け寄ってくるのを見てちょっとバツが悪そうな表情を浮かべたメイ。

「レイラさんどうかしたの? こんなところで」
「あ、いえ…別に…」
 花恋はレイラの持っている鞄に目をやった。
「そんな大きな荷物持ってどこか行くの? 」
「はぁ…そんなところで…」
「一人で行くの? 」
「まぁ…」

 曖昧な返事をするメイを見ていると花恋は何かを察したようだ。

「急いでいくの? 」
「え? まぁ、そうだけど…。それ程急いでいるわけじゃないかな…」
 曖昧な笑みを浮かべてごまかしているメイ。
「ねぇ私の家に来てくれる? 」
「え? なんで? 」
「だってせっかく会えたのだから、ゆっくり話したいもの。レイラさんと会えたのは6年ぶりかな? それに私、レイヤ君と結婚する事になったの」
「ああ、その事ならレイヤに聞いたわ」
「だからレイラさんともっと仲良くなりたいから。いいでしょう? 」

 強引に腕を組んできた花恋はそのまま歩き出した。

 ちょっと待ってとメイは言いたかったが、花恋のペースに巻き込まれてしまった。

 やっぱり双子って似ている。宗田さんも強引に私の事を宗田家に連れて行ったから…。
 
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