僕の愛した人は…

 メイがぐっすり眠った後に花恋は優に電話をかけた。

「うん、心配しなくていいわ。私がちゃんと見ているから」
(ごめん…お手伝いさんには、ちゃんと見ておくように話しておいたのだけど)
「彼女、私には本当の名前を教えてくれたわ。話した後は、随分と楽になったような表情をしていたから。7年前の事故の事は、今でも思い出せていない様なの。ただ傷口に触れると、思い出してはいけないような気がするって言っていたから」
(…悪いのは僕だよ…)
「優は何も悪くないじゃない。どうして自分を責めるの? 」
(だって僕は…澪音さんが好きなのに、レイラさんと…)
「それはそうなる流れだっただけよ。せっかく生まれてきた有羽君がいるのに、いつまでも過去を責めないでよ。有羽君が彼女を見てレイラさんだと思っているならそれでいいじゃない。いつか有羽君が大きくなって、分かるようになれば本当の事を話してあげればいいでしょう? 」
(うん…)
「それより有羽君をしっかり守って。どうやら内金理子が、有羽君に会ってしまったようなの」
(え? そうなの? )
「園児が公園で遊んでいる所に、理子が出くわしたようね。まぁ、隼人の子供ではないのは確かだけど。あの理子は何をしてくるか分からないわ」
(分かったよ。じゃあ澪音の事は頼むね)
「ええ。任せて、レイヤ君のお姉さんだもん。私にとって義姉になる人だから大切にするわ」
(有難う…)
「今度こそ自分の幸せ掴みなさいよ。あんなに素敵な彼女を泣かせたら、許さないわよ」
(分かったよ)

 電話を切った花恋は寝室へ行きそのまま眠りについた。



 
 それから数日後。

 あれからメイは花恋の家で過ごしていた。用事がない限りは外出はしないと約束している。広い花恋の家は退屈しない。タワーマンションの1階にはフィットネスジムもありコンビニもある。花恋の家にもエアロバイクが置いてあり軽く運動できるようになっている。食品や入り用品は一緒に買いに行く事にしている。

 メイは首の怪我も回復した事から少し体を動かそうと1階にあるフィットネスジムに行くことにした。


 体験と言う形でジムを利用するメイ。女性トレーナーが丁寧に使い方を教えてくれて、トレーニングのやり方も教えてくれる。
 ハードな動きではないが体を動かすと気持ちもスッキリしてきたような気がした。

 メイがランニングマシーンで走っていると、厳つい目つきで派手な系統のイケメン男性がトレーニング姿で現れた。
 その男に気づくとメイはハッとした。

 この男は榊英二。元ホストで今は配送の仕事などで生計を立てている。昔はほすとNO1だったが年齢と共に人気も落ちてきて、自分で店を出して経営しようとしていたが失敗に終わったようだ。現在は40歳になったが未だに独身。女性受けする顔立ちは変わらないままだが安定した収入ではない事から結婚には至らないようだ。
 
 メイは英二をじっと見ていた。

 
 ジムで体を動かして一息つくためにコンビニにやって来たメイ。
 英二もトレーニングを経てコンビニにやって来た。


 コンビニを出ると買ったものを手に英二はタワーマンションから出て歩いて行った。
 気になったメイは英二の後を着けていった。


 タワーマンションから歩いて5分ほどの場所にある公園にやって来た英二。
 すると前方から佳代が歩いていた。

「英二久しぶりね」
 相変わらずの傲慢な態度で英二に近づいてゆく佳代。
 英二は立ち止まってあまりよい表情ではない顔で佳代を見ていた。
「どう? 今の生活にはなれた? 」
「まぁ…」
「仕事は安定している? ここ数カ月、お金の振り込みが滞っているのだけど」
 英二はちょっとムッとして佳代を見た。
「あの…。俺ってお金振込む必要あるんですか? 」
「はぁ? どうゆう事? 」
「だって、佳代さんはあの内金コンサルティングの社長夫人になったわけじゃないですか。俺よりお金持っているのに、なんで俺にお金要求してくるんですか? 」
「何を言っているの? あんた乃亜の本当の父親である事、忘れたわけじゃないでしょうね? 」
「忘れてはいないけど。俺は生まれてから一度も会わせてもらっていないし、ただ父親だと認知しろって言われて俺の子供って言われて…」
「あんた自分の立場を分かっている? ホストの出来損ないを、ちゃんと就職できるように手を貸してあげたじゃない。乃亜の父親はあんた。それは間違いない事よ」
「それって本当なんですか? 」
「ええ、本当よ。だって隼人は…男性不妊だもの」

 男性不妊? 
 離れた場所で聞いていたメイは驚いた。

「妊娠したって聞いても何も疑わないから笑えたけど。隼人と結婚前から関係を持っていたけど、特に避妊していなくても全然妊娠しないからこっそり隼人の精子を拝借して調べたの。そうしたら精子が一匹もいなかったわ。これじゃ子供なんかできやしないって思ったけど。万が一、偽装結婚しているレイラとの間に関係を持たれて子供でも出来たら大変だから。あんたに協力してもらったんじゃない。あんたに大金を渡してね」

 そうゆう事だったのか。
 佳代の娘の乃亜と榊英二はそっくりだけど。そうゆうことだったんだ。
 じゃあもしかしてこれって、隼人も騙されている一人ってこと?

 メイはとんでもない事実を知って驚いたが、証拠として二人の会話を録音していた。

< 25 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop