僕の愛した人は…
優とレイラの出会い

 優と一緒に迎えの車で宗田家に帰る途中、有羽は隼人との会話を話してくれた。
 突然連れて行かれて驚いたが、怖いとは思わなかった。知らない家に連れてこられて美味しいケーキを出してもらえて、一緒に食べたら喜んでくれるかな? と思って分けてあげた。なんなく見ていると産んでくれたお母さんが見えてくるような気がして、お兄ちゃんが寂しそうに見えたと有羽は話していた。

 とりあえず誘拐としては被害届けは出さない事にした優。

 

 宗田家に戻ると有羽はなんだか疲れたようで、夕飯を食べたらお風呂に入ってすぐに寝てしまった。

 優は有羽の存在がとうとう知られてしまったかと、少しだけ不安を感じていた。

 
 深夜になり優は机の引き出しからレイラが残した手紙を取り出した。
 その手紙はレイラが刑務所を出てくる少し前に送られてきた手紙だった。

(宗田優様。
手紙なんて失礼な事してすみません。どうしてもお伝えしておかなくてはならない事があります。それは妹の澪音の事です。
もしかして知っていましたか? 澪音のこと。前から知っていましたよね? 私の事は澪音と間違えて声をかけてきたのも知っていました。でも…私、宗田さんに惹かれてしまって…偽造結婚させられていた事を知ってどうしようもなく宗田さんを求めてしまった。それなのに私を受け入れてくれてありがとうございます。まさか子供ができると思っていなくて…でも嬉しかった。こんな私でも母親になれましたから。
 澪音は小さい頃から体が弱くて病気ばかりでした。母も体が弱くて負担が多いと思われて母の実家があるフランスの祖父母の家に引き取られたのです。澪音と離れて15年。澪音は日本で検察官になったと聞いています。澪音の事、私以上に愛してあげて下さい。そしていつか有羽が母親を求めた時は澪音を母親にして下さい。私の勝手ですみません。
 宗田さんに出会えて幸せでした。突然なのに有羽の事を引き取ってくれて…。宗田さんの優しさがあったから、私は有羽を産むことができたのです。有難うございます…本当に…)

 最後の方は涙で滲んで文字がぼやけていた。

 だがこの手紙を送ってすぐにレイラは無罪釈放された。そして帰り道でひき逃げに遭遇して脳死したのだ。

「レイラさん。澪音は僕の元に来てくれました。必ず守ります…」
 
 手紙を引き出しにしまうと優はそのままベッドに入って眠りについた。


 眠りについた優はレイラと結ばれた日の事を夢に見た。
 
 茫然と駅前を歩いていたレイラを見かけた優は澪音と間違えて声をかけた。
「あれ? 澪音さん? 」
 声をかけられたレイラは今にも泣きそうな目をして優を見つめた。
「僕の事覚えていますか? 2年前、歩道橋で助けてもらった宗田優です」
「宗田…優さん…」
 レイラは何のことなのか分からなかったが、宗田優と聞いて宗田ホールディングの人間であることは把握した。
「お元気になられて良かったです。あの時、助けて頂いたのにお礼もできないままですみませんでした」
「お礼…」
 澪音と間違えているんだ私の事。でもお礼をしていないなら…言う事聞いてくれるかもしれない…。
 そう思ったレイラはじっと優を見つめた。
 
 優は何も疑わない純真な眼差しでレイラを見てくれている。その目を見ているとレイラは…。
「…今夜だけ一緒にいてもらえませんか? 」
「はぁ? どうかしたのですか? 」
「今夜だけ…それでいいので…」
 潤んだ目で見つめられると優は胸がキュンと鳴った。
「今夜だけ。そんなこと言わないで下さい。できれば、ずっと一緒にいたいです」
 そう言って右手を差し出してくれた優。
 レイラは素直にその手を取った。


 そのまま優とレイラはシティーホテルへ向かった。
 ダブルの部屋をとり、先ずは冷えた体を温めようとお風呂に入る事にした。
 
 澪音と間違えている事を知りながらも一人でいたくない事からレイラはそのまま流れに身を任せる事にしたが、ちょっとだけ罪悪感もあった。優はとても真剣な目をしていた。ずっと一緒にいたいと言った優は純真な目をしていた。そんな優を騙していいのだろうか?

 迷いもあったが…。

 お風呂を済ませてバスローブ姿でベッドに腰かけて並んでいると、レイラはとても安心感を抱いた。
 今まで隼人といても一緒に寝る事は少なく、昨晩一瞬襲われそうになったが途中でやめられて大切に想っていると言ってくれたのに結局は騙していた…何となく違和感を感じていたのに、それでも信じていたいと思っていたレイラ。
 こんなに安心する人に想われている澪音が正直羨ましいと、レイラは思った。

「あの…。何かあったのですか? 」
 不意に優が訪ねて来た。
「いいえ何も…」
 少しだけ笑みを浮かべてレイラは答えた。
「とても悲しそうな目をしていたので、僕も悲しい気持ちになりました。でも、無理になにかを聞く気はありませんから。僕が一緒にいる事で、澪音さんが安心してくれるならいくらでも一緒にいますよ」
 そう言ってそっと手を重ねてきた優。
 その手はとても暖かく手優しかった。
「…私を…愛してくれますか? 」
 少し恐る恐る澪音は優を見た。
 優は目と目が合うと優しく微笑んでくれた。
「はい、喜んで。2年前に澪音さんにお会いした時からずっと…愛していますから…」
 
 そっとレイラの顎をった優はゆっくりと唇を近づけていった。
 ふわっと重なった優の唇からレイラは優しい愛を感じた。
 
 ああ…この人に先に出会っていれば私は…騙されることはなかったかもしれない…。
 
 ギュッと抱きしめられ深いキスを繰り返され、口の中いっぱいに優に覆い尽くされてしまうともう止まらなくなった。

 今夜だけ澪音のふりをして愛されても許して…。
 そう思ったレイラ。

 キスを繰り返されゆっくりとベッドに押し倒されると、レイラのバスローブを脱がせて行く優…。
 綺麗な首筋から鎖骨に優の唇が這ってくる…。
 暖かく他優しい優の唇はレイラの傷ついた心を癒してくれるようで嬉しい…。

 お互いが生まれたままの姿になり体を重ねてゆく…。
 激しく絡み合う中でも優は優しくて大切に扱ってくれる。労わるように愛撫を繰り返しながらゆっくりとレイラの入り口が清らかな川の水で溢れてゆくのを確認しながら、そっと指で広げてくれる。
 その感覚がたまらなくレイラの吐息が激しくなり喘ぐ声も高鳴ってゆく…。

 こんなに愛されるなんて…恋愛も結婚も諦めていたから…あの人と結婚したら、諦めていた事が叶うって喜んでいたけど。結局騙されていた…もともと諦めていたからいいと思ったけど…やっぱり私、誰かに愛されたかったんだ。

 グイっと力強い優が入って来たのを感じたレイラは悲鳴の様な喘ぎ声を漏らした。
 痛みが想像以上で…それでも優は強引に入ってくるわけでもなく、レイラを労わりながらゆっくり入って来た。

 溢れてくる川の水が優の進行を促してくれて、ゆっくりと入ってくる感覚が気持ちよくなってきたレイラは痛みが次第に快楽へ変わってゆくのを感じた。

 幸せ…もう何もかもどうでもいい…今夜だけこの幸せを感じさせてほしい。
 レイラはそう思った。
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