僕の愛した人は…
メイの素性
数日後。
メイは忍のお見舞いへやって来た。
転落した忍は腰を強打して手術したが下半身不随になってしまい一生車いす生活を強いられてしまった。
仕事も退職する事になりこの先は田舎へ戻り両親と兄弟の世話になって、車いすでも仕事できる職を探す事になった。
あれだけ激しく転落して命を落とさなかっただけでも不幸中の幸いだと忍は言っている。
「ごめんなさい、私のせいで…」
「メイさんのせいじゃありません。何も責任感じないで下さい。こんな形にはなりましたけど、あのまま優子と結婚していたらもっと酷い事が起こったかもしれません。でも…」
頭に包帯を巻いた姿で忍はメイをじっと見つめた…。
「ちょっと僕、本気でメイさんの事を好きになっていました。あの夜、突然現れたメイさんに初めてドキッと鼓動が高鳴ったのを感じました。優子とは流されていたから、本気で人を好きになるってこんなこと言うのかな? と思っていたのです。でも、あの夜は寝てしまって結局何もなかったから、ちょっと残念でした」
「…ごめんなさい…。なんだか、勢いで誘ったから後悔していたの…」
「いいえ。何もなくてよかったと思っています。本当に好きな人と結ばれるなら、勢いとかじゃなく気持ちが通じ合えてからがいいですから」
そう言われるとメイは優と勢い任せで関係を持ってしまったあの夜を思い出した。
レイラと間違えて真剣な優に逆らえないまま関係を持ってしまった。…優にとっては好きでもない相手だったのに…。
そう思うと罪悪感が込みあがって来たメイ。
「メイさん。何か重い荷物を一人で背負っていらっしゃるのですか? 」
「いいえ、別にそんな事ないですよ」
「それならいいですが。一人で背負ってほしくないと思ったのです。こんな体になりましたが、僕が力になれるならと思ったのですが」
「大丈夫ですから、もう私の事は気にしないで下さい。忍さんは家族に囲まれて、これから沢山幸せになって下さい」
「はい。メイさんも幸せになって下さい」
優子の結婚を破談させるために忍に近づいたのは事実だった。だが、忍はとても純粋で優しい人だった。弱い人間ではあるが、真面目な人。それ故に優子に押されてしまったのだろう。
メイはもう二度と忍とは会う事はないと思った。
元々住む世界も違う…忍は暖かい家族に囲まれている…。私は家族には捨てられていると言ってもいいくらいで、ずっと祖父母の元にいたから家族の温かさなんか知らない…。
家族ってなんだろう…。
そんなことを思いながらメイは病室を後にした。
病室から出てメイロビーまでやってくると、佳代と理子が歩いてきた。
「あら、レイラじゃない」
佳代は相変わらず派手な格好で、理子は若作りな格好をしている。
「レイラ…生きていたなんて驚きだわ」
フン! と鼻で笑った理子。
「レイラ…いいえ。…城里メイさん」
ニヤッと笑って佳代がメイの名前を言った。
メイは特に顔色も変える事なく佳代と理子を見ていた。
「おかしいと思ったわ。心臓を奪われたレイラが生きているなんてありえないもの。どうしてレイラとそっくりなのかは知らないけど、似ている事を利用して私たちに近づいているようね? 」
腕組みをしながら偉そうに佳代が言った。
「あなた、金奈総合病院理事長の娘らしいわね? 」
見下した目でメイを見て理子が言った。
「でも貴女は医師免許を持っていない。城郷理事長の娘なのにねぇ」
「親が優秀でも、子供は出来損ないのようね」
クスクスと笑い出した理子と佳代。
「言いたいことはそれだけですか? 」
はぁ? と見下した目でメイを見て佳代は鼻で笑った。
「優子はアンタに結婚を破談にされたって言っていたけど、何をしたの? 」
「まさか、貴女が誘惑したんじゃなくて? 」
メイは小さく笑った。
「そうんなわけないじゃないですか。あの人の事は何も知りませんから。偶然駅前で出会っただけですよ」
「そうよね、忍さんの好みじゃなさそうだし」
「レイラと似て、あんたも地味で暗い感じだしね」
メイは呆れたようにため息をついた。
「人の事より、自分の足元をちゃんと見ていたほうがいいと思います」
「なんですって? 」
メイは佳代を見てクスっと笑った。
「…榊英二さん…」
英二の名前を聞くと佳代の表情が怯んだ。
「…彼、弁護士を雇ったそうです」
「はぁ? 弁護士? 」
「はい。子供の親権を取り戻すそうですよ」
「な…何を言っているの? 」
「そのまま言葉の通りです。いずれ分かると思います」
メイは冷静に言った。
「それでは失礼します」
憮然と去ってゆくメイを、佳代と理子は怯んだ表情で見ていた。
メイが歩いてくると…
不意に優が現れた。
歩いて間もない場所にいた優にメイは驚いて足を止めた。
まさか今の話し聞かれていた?
立ち止まったメイはできるだけ平然を装って優を見ていた。
優もまっすぐメイを見ていた。