僕の愛した人は…
レイラからの伝言

 2週間後。
 新緑が深まり綺麗な緑が輝く季節になり上着も軽くなった今日この頃。

 有羽はすっかりメイをママと認めて休みの日はお弁当を作って公園に行ったりショッピングモールに出かけたりとすっかり甘えている。お風呂もメイと一緒に入ると言って毎日嬉しそうで、以前はどこか悲しげな眼をしていたが最近では穏やかな目に変わって来た。

 優は有羽がメイになついてくれて安心している。
 メイが金奈総合病院の理事長の娘であると分かったが、以前と変わらず「レイラさん」と呼び続けている。


 そんなある日だった。
 有羽は聖と柚香が住むマンションい泊りに行く事になり運転手に送ってもらって出かけて行った。

 優と二人きりになってしまうのは気が引けるメイは何か用事を作って出かけようとしていたが。
「ねぇ、今日は僕に付き合ってもらえる? 」
「え? あ…それは…」
 二人きりででかけるなんて無理! そう思ったメイは断る理由を探したが、なかなか見つからなかった。
「レイラさんの所に一緒に行ってほしいんだ」

 あ…。
 そう言えば、ひき逃げされてそれからレイラの埋葬がどうなっているのかまだ不明だったんだ。
 天城家のお墓は作られておらず親戚一同はお金だけもらうと後は何も関わろうとしなかった…。
 内金家を破滅させる事だけを考えていたメイだが、レイラの埋葬先を調べる事は考えていなかった事に気づいた。

「レイラさんの事は僕が埋葬しました。ご両親の埋葬先が分からなくて、見つかるまではちょっと別々になるけどと思って。ずっとこの5年間供養してきました」
「そうだったのですね。…有難うございます…」
 とりあえずお礼を言っておくべきだと思ったメイ。

「なかなか二人きりになれなくて、有羽も一緒に連れて行ってもいいと思ったのだけど。もうちょっと落ち着いてからでも、いいかなと思ったから」
「…分かりました。きちんとご挨拶したいので、一緒に行きます」
「有難う。じゃあ、これから行くから準備してきて」


 優は自分の車を用意した。
 特別な高級車ではないどこにでもあるシルバーの2000クラス。車内は綺麗に掃除してあり、有羽が乗ってもいいようにチャイルドシートも乗っている。
「隣に乗って下さい」
 助手席を指して優が言った。
 助手席には花柄の座布団が置いてある。
「いいのですか? 私が乗っても」
「もちろんです。どうぞ」
 メイは遠慮がちに樹種席に乗った。

 座布団は見かけより良いクッションで座るとほっこりした気持ちになった。

 特に会話が無くても隣にいると何故か安心できる。
 どうしてだろう?
 メイはそんなことを考えていた。

「あの…花柄はお好きですか? 」
 信号待ちで優が聞いてきた。
「はい。好きです…ずっと、花が私を助けてくれていた、そう言っても過言ではありませんので」
「助けてくれていたのですか。それは、心強いですね」
「はい…庭に咲いている花を見ると、救われたような気がして。どんなに寂しくても、元気になれたので」
「そうだったのですね。今日の鞄も、花柄ですね」
 メイはハッとして鞄をギュッと抱きしめた。
「とても似合っていますよ。ずっと思っていました、花柄がとてもよく似合うと」
「…有難う…ございます…」
 何故か嬉しいと思ったメイは素直にお礼を言った。


 車を走らせて20分ほどの小高い丘の上に、新緑溢れる静かな霊園がある。
 山頂付近には立派な墓石で建てられているお墓もある。

 
 優がメイを連れて来たのは霊園の南側にある納骨堂。
 ここはお墓を建てずにお骨だけ収めている人が利用している。子供がいなくてお墓を守ってくれる人がいない人や、身寄りがなく無縁仏になっている人もいる。
 
 レイラの納骨の前に来て扉を開けた優。
 中には小さな線香立てと、お位牌と隣に白い布に包まれたお骨がある。

 メイはそれを見ると胸に込みあがってくるものを感じた。

 いつも輝いていたレイラ…ヴァレンティアが体が弱く寝込むことが多く、レイラが母親代わりで年の離れた弟のレイヤの面倒を見ていた。本当はメイも一緒にやるべきだが、メイは体が弱くて寝込むことが多くて手伝いたくてもできなかった。いつも申し訳ないと思っているメイにレイラは気にしなくていいから、ちゃんと体を治してと言っていた。
 メイがフランスへ行くことになった日、レイラは意外にも冷静でメイが幸せになれるならと言って送り出した。
 複雑の気持ちのままメイはフランスへ…祖父母の元に行ったメイは、自分だけ家族から捨てられたような気持になっていた。それは寂しさからくるもので。両親とレイラとレイヤは家に一緒にいるのに、どうして自分だけ負担がかかると言って異国に行かされるのか。納得しての事でも…どこか納得できていなかった。フランスへ来た理由として名医がいるからと言う理由もあったが…。
 いつもメイは寂しい気持ちを紛らわすために庭の花を見て癒されていた。

 ふと納骨の隅を見ると数通の手紙の束が置いてあった。
 
 メイはその手紙の束を手に取った。

「それは、貴女にレイラさんが残した手紙ですよ」
「え? 」
 言われて表を見ると「澪音へ」と書いてあった。
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