僕の愛した人は…
認めてほしい…

 
 暫く優の腕の中で泣いていたメイは次第に落ち着きを取り戻した。
 レイラが残した手紙はとりあえず事が解決するまでは、納骨にしまっておくことにした。


 霊園入り口近くの木陰のベンチに座って一息ついた優とメイ。
 泣くだけ泣いた後はメイはすっきりした表情を浮かべていた。

「あの…。もしかして、全てご存知なのですか? 」
 メイが尋ねると優はちょっと黙っていた。
「全て知っていて、私に声をかけてきたのですか? わざとレイラと間違えて」
「…わざとではありません。…初めは本当に間違えそうでした。でも、あなたの瞳の色を見たらすぐに気付いたのです。7年前に、僕を助けてくれた時と同じ。綺麗な赤い瞳だったので」

 7年前…あの事故の事を言っているの? 

「きっとまだ思い出してもらえていない事は分かっています。でも僕は鮮明に覚えています。事故の前に、手帳を拾って渡したことも。その時の僕はまだ大学生4年生だったのですが。手帳を拾った出会いに、運命を感じていました」
「運命…」
「だって、沢山の人の中で会える人ってきっと運命で繋がっている人だと思うのです。落とした手帳を僕が拾って、それを何とかして本人に渡したいって思えたのも…きっと、運命の結びつきがあったからだと思うのです…」

(澪音さん…やっと会えましたね…)
 ぼんやりとメイの脳裏に浮かんできた誰か…だが…顔はぼんやりしているが、声は確かに隣にいる優に間違いない…。
 ぼんやりした中で手帳を渡され…受け取った…。

 そっか…私…もうずっと前からこの人を知っていたんだ…。

「ごめんなさい。何も覚えていませんので…何を答えたらよいのか分かりません…」
「いいよ気にしないで。僕の想いだけ伝えてしまって、すみません」
「いいえ…」
「落ち着くまでは初めの通りレイラさんと呼びます。全てが終わったら、ちゃんと話して下さい。それまで、必要以外に何も言聞いたりしませんから」
 こくりと頷いたメイ。

 だがメイには優の言葉は強く響いていた。
 何も思い出せないが優が言っている事は事実だと信じる事が出来た。

「さぁ、そろそろ帰りましょうか。気分転換に、どこか行きませんか? せっかく…二人きりになることができたので」
 あ…言われてみるとこれって…知らない人から見ているとデートしているように見えるのかな? 
 
 そう気づくとメイはドキドキと鼓動が高鳴るのを感じた。


 ピピッ。
 優のスマホが鳴った。
「はい…。え? …それで今どんな状況なのですか? …はい…分かりました。すぐに行きます」
 
 優の顔色が真っ青になっているのを見て、メイは何かあったと察した。

「どうかしたのですか? 」
「…有羽を乗せた車が事故にあったとお手伝いさんから連絡がありました」
「え? それで、有羽君は? 」
「それが…有羽は誰かに連れ去られたようで、怪我をした運転手だけ病院へ運ばれたそうです」
「連れ去られたって…誘拐? 」
「おそらく…。今、警察も動いているようです」

 誘拐…まさか、あいつら? 
 メイは内金家の誰かではないかと察した。
 隼人は有羽の存在を知っていると優から聞いている。もしかすると有羽の事をレイラが産んだ子供だと察しているかもしれない。大きな勘違いをして、自分の子供ではないかと勝手に思い込んでいる可能性もないとは言えない…、
 事故を装って有羽を連れ去ったとしたら…。

 ピコン!
 メイのスマホに誰かからメールが届いた。

(有羽君の事預かっているわ。この子はレイラが産んだ子供よね? レイラにそっくりだもの。だから、内金家の子供として引き取る事にするわ。養子縁組の手続きはこっちでやっておくから安心して頂戴。隼人と死んだレイラの子供って事で迎え入れるわ。あんたが金奈総合病院の理事長の娘でも、どうにもできないわね)
 差出人は内金理子になっていた。

「…やっぱりあいつ等だったのね…」
「どうしたのですか? 」
「内金理子からメールが来たわ。有羽君を養子にすると書いてある」
「え? 」
「とりあえず、あの隼人に連絡してみるわ。…会社にかけた方がよさそうね…」
「ちょっと待って下さい。ココは、僕に任させてください。有羽は今は僕の子供で、僕だけの子供として籍に入っています。これは、完全に誘拐なので警察に任せて下さい。単独で動いてはダメです」
「でも…」
「心配ないです。殺意はなさそうなので、とりあえず家に戻りましょう」

 優は以外にも冷静に対応していた。
 有羽が連れ去られて一番動揺しているはずなのに…こんなにも冷静でいられるのは、やはりあの大企業の副社長だからだろうか?



 とりあえず優とメイは家に戻る事にした。


 車を走らせていると病院から優に電話が入り、運転手が目を覚ましたと言われたことで、そのまま病院に様子を見に行くことにした。

 

 
 事故は相手の車が走行を邪魔してきてわざとぶつかって来たようだ。運転席側を狙っていて、運転手は頭を怪我して腕を骨折していた。

「赤信号で待っていると、突然車が突っ込んできて。痛みで頭がもうろうとしていると、誰かが降りてきて有羽様を連れ去ってゆきました。確か女性が二人いました。車は乗り捨てて走り去ってゆきました」
 痛々しい姿で運転手が話してくれた。
「顔は見ていませんか? 」
「はい、頭がもうろうとしていたので…。ただ、運転していたのは若い金髪の男性のようでした」
「そうでしたか。分かりました、怪我が治るんでゆっくり休んで下さい。代わりの運転手さんがきてくれますから」
「はい…」


 優と運転手が話している間、メイは舞の元へやって来た。

「メイ。おそらく有羽君を連れ去ったのは、内金理子と佳代だと思うの。他の人からの証言では、理子と佳代は有羽君が通う保育園の周りをウロウロしていたのを目撃されているわ。様子を見ていた可能性がたかいわね」
「そう…」
「ねぇ。もう、本当の自分へ戻りなさい」
「…そうしたいけど…」
「どうやらあの隼人、自首してきているみたいよ」
「え? 」

 舞は手帳を広げて写真を見つめた。
 そこには舞とまだ大学生くらいの女の子が一緒に写っていた。

「メイ…。私の娘のメイは、隼人と同じ大学で後輩だった。隼人に遊ばれて、妊娠させられて。妊娠を告げると遊びだったって、責任を取らずに逃げて行った隼人。…その為にメイはショックを受けてビルから飛び降りて自殺した。…私はそれを受け入れる事ができなくて、死亡届を出せなくて…。貴女に身代わりをしてもらっていたけど、もういいわ。…いつまでも、貴女に身代わりになってもらっていてもメイは浮かばれない…」
「先生、本当にそれでいいの? 」
「ええ。だって、貴女はどんなにな目をメイにしててもらっても。絶対にメイにはなれないでしょう? 」
「確かにそうだけど…」
「もう、本当の自分に戻る日が来ているのよ。貴女の事を大切に想ってくれている人が、いるでしょう? 」

 そう言われるとメイの胸がチクリと痛んだ。

「焦らなくていいわ。貴女の気持ちが決まったら、私はメイの死亡届を出すから」
「わかったわ…」


 
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