僕の愛した人は…
 
 金奈市リッチールヒルズ。
 ここはお金持ちしか住めないリッチールヒルズと呼ばれえる分譲マンションが建っている高級住宅地。

 どの家も豪邸でリッチールヒルズの最上階15階は1戸10億もかかると言われており、特別選ばれた者しか住めないと言われている。今は誰が住んでいるのかは明かされていないが、有名芸能人という噂もある。

 そんなリッチールヒルズの9階に隼人の実家がある。
 佳代との結婚が決まり購入されたが、リッチールヒルズの中でも隼人の実家は中古で安値で購入されている。
 5LDKで広いリビングに和室と洋間3部屋とロフトの部屋がある。

 リビングには高級ソファーが用意されているが、これも中古で購入しているようだ。

 そこに座らされている有羽が今にも泣きそうな顔をしている。
「どうしたの? 私は、貴方のおばあちゃんよ。これからよろしくね」
 気持ち悪い作り笑いを浮かべて話しかけてくる理子を、有羽は恐怖に怯えた表情で見ていた。
「大丈夫よ。有羽君には、同じ年の妹がいるの。だから心配しなくていいのよ」
 佳代がニコっと笑って有羽の手を取ると、ヒクッ…ヒクっと有羽が泣き出してしまった。
「あらら、ごめんなさいね。おばちゃんが怖い顔したからよね? 」
 ヨシヨシと有羽の頭を撫でて理子が慰めると、余計に泣き出してしまった有羽。

「ちょっとお母様? おばちゃんって失礼じゃないですか! 私、これから有羽君の母親になるのですよ」
「あら、ごめんなさい。まだ正式に決まっていないから、今はその呼び方が無難だと思ったの」
「正式ってもう決まっていると同じだわ。ねぇ、有羽君。私が、貴方のお母さんよ」
 
 プイっと有羽はそっぽを向いた。

「もう、お母様がおばちゃんなんて言うから有羽君のご機嫌が悪くなったじゃないですか」
「なによ、たかがおばちゃんって言ったくらいで。そんなにムキにならないでよ」

 ピンポーン。

 チャイムが鳴った。

「あ、隼人だわきっと」
 佳代が玄関へ向かった。


「いらっしゃい隼人」
 
 玄関を開けると隼人がいた。

 リビングから子供の鳴き声が聞こえて、隼人は驚いた目を向けた。

「ごめん隼人。有羽君が来ているの。今日から私の子供になるのよ」
「はぁ? どうゆう事だ? 」
「いいから来て」

 隼人の手を引っ張りリビングへ連れて行く佳代。


 リビングでは理子が有羽を抱っこしていたが、嫌がり始めて有羽が暴れだしていた。
「ちょっと、ちょっと。そんなに暴れないで。大丈夫だっていっているでしょ? もう、男の子ってこんなに暴れるの? 」

 泣きながら嫌がっている有羽は理子の背中を拳で叩き始めた。

「母さん! 」
「あら隼人。ちょうどよかったわ、この子はね今日から貴方と佳代さんの子供よ」
「どうゆう事だ? 」
「だって、この子はレイラが産んだ子供なのよ。隼人ったら、なんにも手は出していないって言っていたけど。やっぱり欲情押さえられなかったのね? 」
「何を言っているんだ。そんなわけないじゃないか! 」

 泣いている有羽に近づいて行った隼人は、理子から有羽を取り上げた。

 隼人が抱っこすると有羽は泣き止んで涙がいっぱいの目で隼人を見つめてきた。

「あら、隼人ったらすごいわね。さすが父親だわ」
「何を言っているんだ母さん。この子は、俺の子供じゃないよ」
「どうして? レイラが産んだ子供よ。貴方仮にもレイラとは結婚ごっこしていたじゃない」
「俺はレイラとは一度も体の関係は持ったことはないよ。それに…」

 ギュッと隼人にしがみついてきた有羽。
 その力を感じた隼人はギュッと胸が締め付けられた。

「隼人。レイラが産んだ子は貴方の子供よ。貴方が父親じゃなくてもね」
 ニヤッと笑って佳代が言った。
「佳代。お前、俺の事どこまで知っているんだ? 」
「どこまでって? 」
「俺はお前の事を全て知っているぞ」

 いつもとは違う真剣な目で見つめられると佳代はドキッとした。

「悪いが、お前の事をずっと調べていた。お前の父親は間もなく逮捕される」
「父が? どうして」
「詳しい事は俺から言えない。だが俺は、お前に慰謝料請求できる」
「はぁ? 何を言っているの? 」
「お前。浮気していたな、乃亜は俺の子供じゃない。乃亜は元ホストだった榊英二の子供だ」

 強気だった佳代が動揺した表情を浮かべた。

「おかしいと思っていた。俺に乃亜を会わせないようにしているし、お金だけ請求してくるし。それに俺は…男性不妊だ…」
 
 理子と佳代は顔を見合わせた。
 
「隼人、どうしちゃったの? あなた、私を助けるためにレイラを騙して心臓を奪ってくれたでしょう? 私の為に何でもしてくれるって言っていたじゃない。それなのに、どうして? 」
「そうよ隼人。私と結婚して、父の会社とあなたの会社が合併したら世界を相手に仕事ができるようになって。今では業界ではNO1に上がるくらいになったじゃない。乃亜を妊娠したって報告した時だって、喜んでくれたでしょう? 」
「ああ、今までの俺はどうかしていた。母さんに認めてほしくて。学生時代は女を酷い扱いしてきた。そのせいなのか、学生を卒業してから高熱が続きその時、俺は精子が作れない体になったらしい。佳代が乃亜を産んだとき違和感を感じて調べたから間違いない。俺の精液から精子は一匹も検出されないと言われた。そんな俺がどうやって子供を作れると思う? 」

 理子は真っ青になり佳代を見た。

「俺は…母さんに認められたかった…小さなころから、男に縋っている母さんは俺の一人置いて子育ても放棄していた。だけど、母さんの役に立てば認めてもらえると思い込んでいた。だから…レイラの心臓を奪うために協力もした。でも…」
 隼人はギュッと有羽を抱きしめた。
「この子は…俺の子じゃない…。産んだのは、確かにレイラだと思う。…でも父親は俺じゃない」

 佳代は隼人が有羽を連れて来た時に優が迎えに来たことを思い出した。
 その時、優が自分の子供だと言っていた。
 佳代はてっきり何かをごまかしているだけだと思って真に受けなかったが…。

「まさか…」
 佳代は改めて有羽を見つめた。

 レイラに似ている様子が強いが、よく見ていると優にも似ている有羽…。
 
「隼人…本当にレイラとは何もなかったの? 」
 真っ青な顔のまま理子が尋ねると、隼人はゆっくりと頷いた。

 理子は佳代とかを見合わせると急にとんでもない事をしている事を実感し始めた。

 ピンポーン。
 チャイムが鳴ると佳代と理子はドキッと驚いた。

 隼人は覚悟を決めてモニターを確認した。

 モニターには警察官が映っていた。
「はい…」
 隼人が返事をすると
(警察です。そちらに宗田有羽君が連れてこられていると通報が入ったのですが)
「…はい、その通りです…。自分が保護していますので、どうぞ上がってきて下さい」

「隼人、まさか私達を警察に突き出したりしないわよね? 」
「有羽君はただ、遊びに来ただけって言ってくれるわね? 」

 隼人は呆れた表情を浮かべた。
「そうやっていつも、自分の事しか考えていない。そんなアンタがずっと憎かったよ」
 ボソッと隼人が言うと理子は何も言い返させなくなった。
「…俺は…もしかすると本気でレイラに恋していたのかもしれない…」

 ガチャっと玄関が開くと複数の警察官が入って来た。

 隼人は警察官に有羽を渡した。

「そこにいる二人の女は、宗田有羽君を誘拐してきて無理やり養子にしようとしていました」
 そう証言した隼人。
 
「隼人、あんた私を警察の売ってこのままで済むと思うの? 」
「…分かっている。…だが、これ以上はもう…」

 警察官が理子に手錠を書けようとしたとき。
「うっ…」
 急に胸を押さえて理子が蹲った。

   
 
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