僕の愛した人は…


 翌日。
 
 澪音は有羽に本当の事を話すことにした。

 レイラは自分の姉であなたのお母さん。そして私はレイラの双子の妹であなたの叔母になる。だから本当のお母さんじゃない。ずっと騙していてごめんなさい…と、正直に話すことを決めて有羽に話しかけた。

「有羽君、お話があるの」
 
 お休みの今日、有羽はリビングでテレビを見つつ、お気に入りのおもちゃで遊んでいた。澪音が話しかけると、有羽は遊びの手を一時停止して顔を上げた。。

「あのね有羽君。実は、有羽君に話していない事があるの。聞いてくれるかな? 」
 神妙な面落ちで澪音が話し出すと有羽は満面の笑みを浮かべた。
「わぁーい。やっと話してくれるんだね…澪音おばちゃん」
「え? 」
「僕知っていたよ。澪音おばちゃんだって」
「知っていた? どうして? 」
「だって…ママが教えてくれたもん。夢に出てきて、有羽の事をこれから育ててくれるママが来てくれるから、もう寂しくないよって。ママの双子の妹で名前は澪音。天使のように優しくて、ちょっと寂しがり屋さんだから楽しいお話いっぱいしてねって」

 澪音は、信じがたい話でも納得することが多い。初対面で澪音を「ママ」と呼んだ有羽は、レイラと間違えているのかと思われた。しかし、幼い頃に離れた母親の顔を子供が覚えているはずはない。優が写真を見せて「これがお母さんだ」と教えていても、実際に会う人と写真は全く異なるものだ。それに、有羽は冷静さを保ち、何かを知っているかのような様子だった

「そう…全部知っていたの? 」
「うん。それにね、パパも言っていたの。僕の事を産んでくれたママは、必要な人に命をプレゼントして死んじゃったけど。これから僕の事をパパと一緒に育ててくれるママが、もうすぐ来てくれるよって。その人の名前は澪音って言うんだよって話してくれていたよ」
「…そう…」
「澪音おばちゃんがずっと苦しそうにしていたから、僕、パパに何度もちゃんと話そうって言ったんだけど。パパが澪音おばちゃんが、大切な事をやり遂げるまで待っててって言ったんだ。でもやっと話してくれてたんだね。有難う」

 嫌われてしまうのではないかと思っていた。嘘つきって怒られてしまうかもしれないって思った。でも有羽は…優とそっくりで、相手の出方を待っている。そしてどんな出方をしてきても冷静受け止めている。まだ小さな子供なのに、こんなにしっかりしているのはレイラの血を引いているのもあるだろう。澪音はそう思った。

「有羽君。私は、有羽君のママになれるかな? 」
「もうママになってくれているでしょう? だから、こうやって本当の事を話してくれたのでしょう? 」
「うん、そうだね。有羽君のママになれるように、頑張ってみるね」
「うん。でもね、頑張らなくてもいいよ。ママになれなくても僕は澪音おばちゃんの事大好きだから。これから、僕が大人になるまで…ううん、僕が大切な人を連れてくるまで一緒にいてね…ママ…」

 ギュッと抱き着いてきた有羽を、澪音は優しく受け止めた。
 この子のママにはなれないかもしれない。でも、私も有羽君が大好き。その気持ちは一緒だから大丈夫。
 姉さんはずっと有羽君を守っていてくれたんだ。私と引き合わせるために姿が見えなくてもずっと守っていてくれたんだね。
 
 大丈夫…これからは私が…いいえ。私と優さんで有羽君を守ってゆく。だから安心して…。

 
 有羽と澪音の様子をリビングに入り口で見ていた優はホッとした。有羽には前から話していた事だから、今更拒否する事はないと思っていたが。実際に目の前で語られると子供の心は微妙な所もあるから…。


「有羽」
 優が声をかけると有羽は立ち上がって駆け寄って行った。

「パパ。これからは一人で頑張らなくていいよ」
「え? 」
「だって、ママがいるもん。素敵な澪音ママが一緒にいてくれるから大丈夫だよ」
「うん…」
 優はそっと有羽を抱き上げた。
「有羽。レイラママのお墓参りに行こうか」
「うん、行く! 僕の事を産んでくれたママに有難うって言ってくる」

 無事に和解も成立した事で優は有羽も一緒にレイラの納骨堂へ連れていくことにした。

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