僕の愛した人は…
10年後。
春風が心地よい桜の花びらが舞い散る季節。
それぞれの決意で終った内金一家破滅への復讐劇。
刑に服した佳代は無所内でも男女問題を起こして今はかなり遠い地で刑に服していてあと数十年は出てこられない状況になっている。そんな中でも毎晩「男が欲しい」と叫んでいる佳代。精神を病んでいるようでそうでもない狭間で苦しんでいるようにも見える。
10年前よりかなり老け込んでしまい今は見るからに老婆にようになってしまったようだ。
恋花と結婚したレイヤは上之山家とは養子縁組を解消して天城レイヤに戻った。恋花も宗田から天城恋花になった。上之山家は跡取りがいなかったことからレイヤが養子縁組を解消しても相続はそのままにして不動産並びに夜の商売は全てレイヤに譲る事にした。
5年前に恋花は個人病院を設立,今は日勤だけで日曜日はお休み。レイヤもほとんど自分が動かなくても仕事ができるようになり、家で仕事をしながら恋花との時間を優雅に過ごしている。現在二人の間には保育園児の子供が二人いる。
宗田家。
10年経過して優と澪音が結婚してから5年たったころに、聖と柚香が同居を申し出てきて一緒に暮らすことになった。
高齢であるという理由もあったが、一番の理由は澪音が子供を授かった事だった。不妊だと宣告されていた澪音だが、体調が悪く検査してもらうと妊娠が発覚。奇跡としか言えないと大喜びで出産したのは双子の赤ちゃん。男の子と女の子の双子で男の子には優愛(ゆあ)女の子には愛音(あいね)と命名。暫くは優と有羽に協力してもらっていた子育てだったが、大きくなると大変だからと言って聖と柚香が一緒に暮らしたいと言い出したのだ。やんちゃな双子も小学生になり二人でサッカーを始めて頑張っている。一緒に暮らし始めた聖と柚香は旅行が好きで長期で海外へ行くことが多く今はヨーロッパ旅行へ行っているところだ。
「行ってきます。お母さん、お父さん」
元気な声で挨拶をしたのは15歳になった有羽。
優と同じくらいの背丈になって、顔立ちは澪音とそっくりになり美形のイケメンに成長した優は中学を卒業してアメリカに行くことの決めた。その理由は…。
「気を付けて行ってきてね有羽」
10年経過してすっかり優しいお母さんの顔になった澪音。髪はロングヘヤーになり10年前より若々しく見える。
「…有羽の事をよろしくお願いします」
10年経過しても若々しいイケメンのままの優が、有羽の後ろにいた男性に声をかけた。
「はい。大切にお預かりします」
春の日差しと共に姿がハッキリ見えた男性は…隼人だった。
隼人は無期懲役と判決が下されたが、真面目に刑に服していたことを評価され8年で出所してきた。世間では極悪人扱いされる事で現在は改名して杉本隼人として生きている。出所後はしばらく田舎で目立たなく暮らしていたが、優が居場所を見つけて内金コンサルは宗田ホールディングに吸収合併され生き残っている事を告げた。
感無量で泣き出した隼人に優は「アメリカでもう一度やり直してください。コンサルティング部門を新しく設けたので、そちらの支店長として就任して下さい。初めの費用は負担させてもらいます」と言った。
犯罪者である隼人にここまで優しくしてくれるとは…罪を償って生きていてよかったと隼人は心から思えた。
隼人がアメリカに行くことを知った有羽は中学を卒業して留学すると決めた。そして隼人と一緒に暮らしたいと言い出したのだ。
少し不安もあった優と澪音だが。
「有羽君をレイラさんだと思って、一緒いる間は俺が全力で幸せにします」
と、隼人が言った事で任せる事にした。
10年前とはすっかり変わって優しい表情の隼人に、有羽はすっかり懐いていた。
犯罪者と被害者の息子を一緒にさせるなんてありえないと世間は言うだろ。
でもこれは澪音が10年前に言った「汝の敵を愛せよ」と言う事だ
自分の憎しみを愛したから今は憎き犯罪者でも愛せる人に変わったのだ。
二人を見送った優と澪音。
「お母さん、お兄ちゃんいっちゃった? 」
元気よく優愛と愛音が出てきた。
二人とも優とそっくりな顔をしていて、とてもかわいい。
「いいな~夏休みになったら会いに行きたい」
元気な優愛と愛音の声を聞きながら優も澪音もこれでいいと思った。
現在。
澪音は宗田ホールディングの顧問弁護士として子育て優先で働いている。そして優は社長へと就任して忙しい日々を送っている。
心臓を奪う為に姉のレイラを騙して両親まで殺害した隼人。だが、憎むべき隼人を許した澪音。
全てを許すそして汝の敵を愛せよ。これは決して相手へ期待する事ではない。
汝の敵を愛せよとは自分自身が決意する事。憎しみを愛して全てを許すと決意する事で、極悪人でも善人へ変わるのだろう。
子供が産めないと宣告された澪音にも奇跡が起こったように…。
END