僕の愛した人は…
レイラじゃなけど…
 
 夜も更けって。
 有羽はメイが隣で寝かしつけるとぐっすりと眠った。可愛い有羽の寝顔はレイラとそっくりで、メイはとても懐かしかった。
「小さい頃は姉さんと一緒に寝てて、いつもギュッと抱きしめてもらっていたなぁ。病気で寝ていても、傍にいてくれた…。有羽君もきっと、そんな姉さんとそっくりなんだろうね」
 そっと有羽の前髪に触れたメイ。
「髪質も姉さんと似ている。…隼人と結婚生活を送っていた姉さんが、どうして宗田さんと親密な関係になったのかな? 」
 疑問が残る中、メイは有羽を寝顔を見ながらレイラと過ごした遠い昔を思い出して懐かしくなった。

 
 ぐっすりと眠っている有羽を確認して、メイはお風呂に入る事にした。
 今日一日でバタバタと色んな事が変わりすぎて、流されるままに宗田家に来てしまったような気がする。でも、何となくここに来なくてはいけなかったのかな? とも思える。レイラが残した子供の有羽がいるなら、メイにはその子を守る義務があると思えてきた。だが、これから仕掛けようとしている事は内金家を破滅させるために危険な事だ。その事に有羽を巻き込んでしまっては非常の危険。
有羽との関りを知られないようにしなくては…。
 
 
 お風呂に入って湯船につかるとメイはホッと一息ついた。
 まるで温泉のような広さで、浴槽もヒノキでいい香りがして温まる中、ボディーソープもシャンプーとリンスも柔らかい香りで天然素材のもが置いてあり使っても心地いい。メイが使っていいように新しいタオルも用意されていて、急に来ることが決まったのに、まるで以前からメイが来ることが分かっているような様子も見受けられた。

 お風呂には天窓があり、その窓からは綺麗な星空が見える。
 ちょっとしたプラネタリウムのようで、メイの心を癒してくれた。
「…姉さん。…よく小さな頃は一緒に夜空を見上げて星を見ていたよね。…姉さんは有羽君を一人で産んだの? 父親は誰なの? どうして、宗田さんが引き取っているの? 有羽君はすっかり宗田さんの事をパパって呼んで、慕ってけど。…このまま私が姉さんと間違えられていたら、宗田さんと…」
 星を見ているメイは一瞬だけ、優と良い感じになる場面を想像した。
「ダメダメダメ! 」
 頭をブンブンふって想像した場面を必死にかき消した。
「そんなことは絶対にない。私は…あの男とその家族を、地獄に落としてやるのだから…」
 夜空を睨んでそう自分に言い聞かせたメイ。

 
 メイがお風呂から出ると真新しいバスタオルと着替えが用意してあった。ピンク系のシンプルな女性用のパジャマ。そして可愛くて清楚なブルー系の下着上下が用意してあった。
「私…こんな下着着た事がないけど…」
 メイは戸惑いながらも用意された下着とパジャマを着る事にした。



 お風呂から出てメイが歩いてくると二階から優が降りてきた。
「レイラさん、有羽はもう寝ましたか? 」
 声をかけられるとメイはハッと見上げて小さく頷いた。
「そうでしたか。寝つきがよくて安心しました。興奮すると、なかなか寝てくれないときもあったのですが。やっぱり、お母さんがいると安心するのですね」
 
 お母さんって私は違うけど…。
 複雑な思いが込みあがったメイは、そっと視線を落とした。  
「ちょっとお話がありますので後からお部屋に伺ってもいいでしょうか? 」
「で、でも有羽君が起きてしまうといけないので…」
「大丈夫ですよ、有羽は一度寝たら朝まで起きませんから」
「え? そうなのですか? 」
「はい。ぐっすり寝た時は朝まで起きませんから、心配いりません」
「そう…ですか…」
「僕、今からお風呂入ってきますから。ちょっと遅くなりますが待っててくださいね」

 言いながら急ぎ足でお風呂に向かった優。

 メイは小さくため息をついた。

 どうして私は彼のペースにまきこまれているのだろうか? 隼人に会って取引を済ませたらそのまま帰って時を待つつもりだった。それなのに偶然にしても優が現れ、私を姉さんと間違えて追いかけてきて有羽君を引き合わせてくれた。そしてなし崩しの様に宗田家にいる事にもよく判らない。

 そんな思いを抱きながらメイは用意された自分の部屋に向かった。
 
  
 有羽の部屋の向かい側に用意されたメイの部屋は南向きで日当たりがよさそうな広い洋間。
 寝室が奥に用意されていて、机と椅子、本棚とクローゼット。中央にはくつろげるソファーと小さなテーブルが置いてある。
 クローゼットの中には真新しい服が数着用意されていて、下着や靴や鞄も全て新しいものばかりで何故かメイのサイズにピッタリだ。
 いつでもレイラが帰ってきてもいいように用意されていたにしても、サイズまで同じなのは不思議だった。
 
 優とレイラはいったいどんな関係だったのだろうか?
 隼人と婚姻関係だったレイラがどうして優に子供を預けているのだろうか? 有羽はレイラにそっくりだけど、どこか優にも似ているような気がする。誘拐犯として罪を被せられた時レイラは自宅にいたのに…その時レイラが子供を出産した様子がると証言していた人がいたが。だが真相はハッキリしていない。仮にそうだとしてその子供は隼人との子供なのだろうか?

 メイはため息をついた。考えても何も答えが出ない。混乱するばかりだった。

 
 コンコン。
 ノックの音にハッと我に返ったメイ。
「レイラさんお待たせ。入っていい? 」
 気を遣う小声で優がドアの外から呼びかけてきた。
「はい…」
 少し緊張した声で返事をしたメイ。
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