僕の愛した人は…
もう一度…

 
 優と有羽が車で出て行ったあとにメイは外出する事にした。運転手が送迎すると言ったが歩いてゆけると断ったメイは一人駅まで歩いてきた。


 駅裏にある個人経営カフェにやって来たメイ。
 そこには金髪の派手な格好をしたホスト風の若い男性が一人いた。
 まだ20代そこそこの男性は窓際の座って珈琲を飲みながらスマホを見ていた。
 この男性はメイの実男弟で上之山レイヤ。上之山財閥へ養子に行き現在は夜の街を牛耳っているが、表の顔は不動産王である。
 レイラの一件は全て知っていてメイに力を貸している。

 カラン。
「いらっしゃいませ」
 一人営業をしているマスターがグラスを拭きながら入口を見るとメイが入って来た。

 メイは窓際に座るホスト風の男に近づいて行った。

「お待たせ」
 メイが向かい側に座ると男は白い封筒を渡した。
「有難う。どう? あの女は」
「すごく調子ついていますよ。昨晩なんかボトル5本も空けて500万もつかってくれましたよ」
「へぇー。そのお金はどこから出ているのやら」

 マスターが注文を取りに来てメイは珈琲を頼んだ。

「姉ちゃん。あの佳代って女ヤバイよ」
「ヤバイ? なんかしたの? 」
「未成年売春やってる」
「え? 」
「ほら、アプリがあるだろう? それで未成年誘い出してインコーってのやっているよ」
「未成年にまで手を出したらアウトじゃない? 」
「ああ、内金コンサルティングの社員に手を出しているだけじゃなく未成年にまで…。どこまで男好きなのかしら」
「若さを保ちたいんじゃないかな? でもさっ、もっと面白い事が分かったんだ」
「面白い事? 」

 レイヤはメイの耳元でヒソヒソと語った。

「本当? 」
「ああ、間違いない」
「それが本当なら、あいつはすっかり騙されているって事? 」
「うん」
「そう…。ねぇ、ついでに頼みたいことがあるのだけど」
「なに? 」
「…宗田ホールディングの副社長、宗田優について調べてほしいの」
「え? 」

 メイは一瞬昨晩の出来事が頭によぎった。

(僕が一生守ります…一緒に幸せになろう…)

 そう言った優。だが…あれはレイラに言った言葉だから…。

「彼、どうやら姉さんと深い関係があったようなの。5年前、隼人と婚姻を結んでいた姉さんが宗田優とも関係があったようなの」
「あ…うん…」

 レイヤはスッと視線を落とした。
 その表情を見るとメイはレイヤがなにか知っているのだと察した。

「レイヤ、何か知っているわね? 」
「いや…だって俺。…優さんの妹の香恋さんと…付き合っていたから…」
「え? どうゆう事? 」
「付き合っていたというより、香恋さんから猛アタックされて押されていたんだけど」
「今は? 」
「い、今はそんな関係じゃないと…思う…。ずっと連絡とってないし」
「そうなのね? 」

 フッとレイヤは一息ついた。

「レイラ姉ちゃんは、本当は宗田さんと結婚する予定だったんだ」

 え? 
 驚いてレイヤを見つめるメイ…。レイヤはちょっと申し訳なさそうに視線を落とし話し始めた。


 レイラと優は8年前に出会っていた。
 偶然街で見かけてお互いが気になって遠くで追いかけていたようだ。しかし優はまだ学生でレイラは社会人になっていた事から立場の違う者どうしとしてつかず離れずだった。だがまだレイラの両親が生きている頃、親どうして縁談の話しがあってその縁談がまとまりそうだったが、両親が急死して隼人と結婚する流れになってしまった。
 しかし隼人に裏切られて途方に暮れていたレイラが偶然にも宗田ホールディングの清掃員として働いているとき、再会した。
 それがきっかけでレイラと優は親密の関係になったのではないかと聞いてる。
 いつの間にかレイラは身ごもっていてすでに六ヶ月を過ぎていて産むしかない状態だった。お腹はそれほど目立っていなかったことから清掃員は続けていた。しかし優の父・聖が噂を聞きつけて清掃員であるレイラに「優には近づかないで下さい」と言ってきた事がきっかけで、レイラは姿を消した。
 貯金していたお金で何とか出産して無事に男の子を生んだレイラ。
 レイヤは既に上猪山家に養子に行っていて時々レイラから相談を受けていた事から、ある日レイラが住むアパートへ行ってみると、隼人の妻・佳代から「あんたを誘拐犯にしてやる」と脅迫電話がかかって来た。その電話にレイラは危険性を感じて、優に子供を託して姿を消した…。レイヤには一切口外しないでほしいと口止めしていた事から、何も言わず黙っていた。しかし、その後に本当にレイラは誘拐犯として逮捕された。しかし冤罪だと判明して釈放されたが、ひき逃げにあい脳死。その後は理子に心臓を奪われてしまったのだ。


「そう…だから、子供を預かっていたのね」
「ごめん、初めに話す事だったよね? 」
「もういいわ。それより、隼人は子供の存在を知らないのよね? 」
「ああ、多分」
「でも佳代の子供の真実を知ったら狙われるかもしれないわね」
「そうだね」 
「わかったわ有難う。引き続きあの二人を頼むわね」
 
 メイは伝票をもって立ち上がった。

「姉ちゃん」
 ん? とメイはレイヤに振り向いた。
「姉ちゃん。俺は、姉ちゃんに幸せになってほしいって願っているよ」
「そう。私よりレイヤは自分の幸せを考えなさい」

 それだけ言うとメイは去って行った。

 レイヤはやるせない表情を浮かべていた。

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