君しか考えられないーエリート御曹司は傷物の令嬢にあふれる愛を隠さないー
 手際よく仕上げていく弥生さんを鏡越しに見つめながら、これまでのことを思い起こしていた。

 父は晴臣さんから拒絶されたにもかかわらず、結婚式についていくつもの注文を付けてきた。衣装はもちろん絢音屋のものを使用すると譲らず、それに合わせるように髪形やメイクにも口をだす。

 それに対して晴臣さんと弥生さんは、いくら政略的な意味合いの強い結婚とはいえ主役は花嫁だと怒ってくれた。
 それならばと私に接触しようとする父から、晴臣さんは完全に守り通してくれた。おかげで史佳たちの処遇を聞いた日以来、父とは顔を合せずに済んでいる。

 これまでも晴臣さんは、父に再三にわたって苦言を呈し続けてきた。
 けれどあの人は、一向に態度をあらためようとしない。
 おそらく今日もなにかを言ってくるだろうけれど、いっさい取り合わないと決めている。

 そんな現状を伝えておくために、私からお願いして晴臣さんのご両親とおじい様に話をする時間をつくってもらった。

『お騒がせをしてすみません』

 当頭を下げた私を、三崎家の人たちはあなたのせいじゃないからと言ってくれた。

『しかし、あいつの息子がそんな男だったとは……』

 父の横暴さを知って、おじい様が戸惑いを見せる。

『お前も晴臣も、言ってくれればよかったじゃないか』

 父とおじい様は、タイミングが合わず面識がないそうだ。

『そうは言っても、父さんは〝恩返し〟で頭がいっぱいだっただろ? 絢音屋くらいなら、いつでもどうとでもできる。だからとりあえず放置しておいたんだよ』

 父と顔を合せていたお義父様は、あの人の本性に気づいているらしい。
 二社の力の差は明らかなのに、父はどうしてあそこまで傲慢にいられたのだろうか。私の知らないところでもきっといろいろと迷惑をかけていたのだろうと、ますます申し訳なくなった。

『ああ、亜子さんがそんな顔をする必要はないよ』

 うつむく私に気づいたお義父様が、慌てて声をかけてきた。

『私たちはあなたを酒々井家の娘としてではなくて、晴臣が選んだ女性として受け入れているんだ』

 おじい様とお義母様が、私に向けてうなずく。横に立つ晴臣さんは私の肩をそっと抱き寄せてくれ、弥生さんはにっこりと微笑みかけてくれた。
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